与論の幼名(ヤーナー)風習を研究 立命館大客員研究員の冨澤さん 形骸化を懸念
鹿児島県与論島の「幼名(ヤーナー)」の風習を研究する立命館大学客員研究員、冨澤公子さん=京都市=がこのほど、昨年11月に島民ら3世代を対象に実施した調査の報告書をまとめた。ヤーナーは現在も残る風習だが、その意義を理解する人は少なくなっており「形式的になりつつある」ことを明らかにした。 冨澤さんは父が徳之島町出身。京都府職員として勤務していた2006年に神戸大学大学院に入学し、その後は立命館大学の非常勤講師を経て19年に博士号を取得した。ゆかりのある奄美群島を拠点に、長寿健康などをテーマとした研究を行っている。 今回の調査の題材は「与論島の『ヤーナー(幼名)』風習にみる暮らしの安寧とつながり意識-孫・高齢・超高齢世代を対象とした意識実態調査からの考察-」。与論町出身で、鹿児島工業高等専門学校の町泰樹准教授も研究に協力した。 ヤーナーとは、与論島で生まれた子どもに対し戸籍上の名前とは別に付けられ、その家の先祖から受け継ぐ名。親しみを込めて、大人になってもヤーナーで呼び合うこともある。 名前は「マニュ」「ナベ」「ウシ」などさまざま。男女いずれかの性別に限定したもの、中性的なものがあり、冨澤さんらの調べによると41種類が確認された。 調査では、超高齢世代(平均年齢88・8歳)4人と高齢世代(同65・4歳)5人を対象にインタビューを行い、その孫世代に当たる島内の小学生を対象にアンケートを実施。ヤーナーの継承状況や人々の意識を調べた。 これによると、日常的にヤーナーを使ってきた超高齢世代は、名前をもらった先祖やきょうだいのヤーナーなどを詳細に把握。一方、高齢世代は普段は戸籍上の名前を使うことが多く、名前をもらった先祖を回答できる人は一部だった。 このほか、テレビ番組で紹介されたことで「(風習が)大事なことだと気付かされ、ヤーナーを付ける人が増えた」との意見もあり、外部の視点が島内における伝統的な風習の再評価につながっているとした。 アンケートは与論小学校の4~6年生57人が回答。このうち、77%がヤーナーを持つと答えた。名前をもらった先祖を「知っている」が42%、「知らない」が58%。ヤーナーで「よく呼ばれる」「ときどき呼ばれる」は合わせて25%にとどまった。記述回答では、身近な祖父母からもらった名前だから大切にしたいという意見もあった。 冨澤さんは、世代に関わらず島民らはヤーナーに対して親しみを感じている一方、継承には日ごろからヤーナーで呼ばれる経験やその家の世帯構成、個人の意識が大きく影響していると考察。ただ名付けるだけでは形骸化し、風習が衰退する恐れがあると指摘した。 「ヤーナーは貴重な風習。身近な存在だが形式的になりつつある。日常的に活用していくことが大切」と語った。