なぜ大迫は”厚底席巻”の高速レースで日本記録を更新し五輪代表を引き寄せ泣いたのか。本当に瀬古氏危惧の本番メダルは無理なのか?
東京五輪の男子マラソン代表は残り「1枠」。プラチナチケットをめぐる戦いは、例年よりも静かな東京マラソンで繰り広げられた。大迫傑(ナイキ)、設楽悠太(Honda)、井上大仁(MHPS)。”3強”は、それぞれの戦略で夢の舞台を目指した。 まずはシューズ。大迫と井上はナイキ厚底シューズの新モデルである『エア ズーム アルファフライ ネクスト%』を着用。設楽は履き慣れている『ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%』のオレンジ色をチョイスした。 勢いよく飛び出したのは、マラソンで初めてナイキの厚底シューズを履いた井上だった。迷うことなくファースト・ペースメーカーの背後についた。設楽は第2集団でのレースを選択。大迫はファーストとセカンドの間でしばらく走ると、第1集団の後方に落ち着いた。 中間点は第1集団が1時間1分58秒、第2集団が1時間2分21秒で通過する。ともに日本陸連の設定記録(2時間5分49秒)を十分に狙えるハイペースだった。 3人のなかで最初の”異変”は大迫に訪れる。23~24kmの1kmが2分52秒までペースが上がったこともあり、集団から遅れたのだ。しかし、大迫の戦いは終わっていなかった。むしろ、ここから本当の戦いが幕を開ける。 「前半のハーフはすごく速く感じたんです。自分のキャパシティ以上で走ってしまうと、つぶれてしまうと思ったので、25~30kmは自分のペースで走りました。その調整がうまくいったと思います」 30km通過は日本人トップの井上が1時間28分28秒、大迫は1時間28分40秒、設楽は1時間29分05秒。残り12.195kmで大迫が抜群の強さを発揮することになる。一気に前との差を詰め、32.2kmで井上らの集団に追いついた。32.5kmでライバルの前に出ると、32.7kmでスパート。井上を突き放して、前を走る海外勢を目指して突き進んだ。 「追いついた集団のペースが少し遅かったのと、井上選手も含めてきつそうな雰囲気だったので、少しチャレンジをしてみようかなと。残り10kmありましたけど、いけるかなという手応えがありました」