松井証券×JCBが挑むクレカ積立 赤字は避けられないのに、なぜ勝負するのか
インデックス全盛の逆を行く、富裕層開拓の勝算
投資信託市場では、低コストインデックスファンドの存在感が際立つ。三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は純資産総額が5兆7696億円に達し、16年ぶりに国内公募投信の最大規模を更新した。同社の「eMAXIS Slim 全世界株式」、いわゆる”オルカン”もNISA口座で最大の人気を誇る。 証券会社系列の運用会社も追随し、SBI証券の「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」、楽天証券の「楽天・全米株式インデックス・ファンド」など、信託報酬を極限まで抑えた商品が相次ぎ投入され、低コスト競争が激化している。 松井証券の戦略は、この業界の主流とは一線を画すものだ。「インデックス投資だけでは満足できないという投資家が多い」と増田氏は同社顧客層の特徴を説明する。 若い資産形成層は低コストインデックスを主に利用するのに対し、投資に慣れた熟練顧客はアクティブ投信を嗜好(しこう)する人も多い。実際、他社からの入庫(口座移管)は増加傾向にあり、「移管されてくる投資信託のほとんどがアクティブ型だ」(同)という。他社でクレカ積立を利用している投資家の中から、より還元率の高いサービスを求める層の取り込みを狙う。 JCBのプレミアム券種の主要顧客層とも、この戦略は相性が良い。月間5万円以上のショッピング利用で最大1.0%の還元率が適用されるプレミアム券種。「当社としてもプレミアムカードの会員獲得につながることを期待している」とJCBの山氏。カード会社側も、アクティブ投信を選好する富裕層との接点拡大に期待を寄せる。
カード業界最後の大手参入、JCBが選んだ戦略
JCBにとって証券会社との提携は新たな挑戦となる。大手カード会社の多くが証券会社と組んでクレカ積立市場に参入する中、同社は慎重な姿勢を崩さなかった。参入を決めた背景について「資産形成ニーズが無視できない流れになってきた」とJCBの山氏は説明する。 松井証券はすでにジャックスと提携カードを発行しているが、今回はJCBとの組み合わせを選んだ。「カード業界のパイオニアであり、ブランド力、技術力、サービスの質も高い」と増田氏はJCBを評する。同社が実施した顧客調査では、投資信託の積立投資を行っている顧客の2~3割がすでにJCBカードを保有しているという。後発ながら、JCBブランドの求心力を武器に市場参入を図る形だ。 当面はJCBオリジナルシリーズでの展開にとどめるものの、成果次第で対象カードの拡大も検討する。富裕層の取り込みを軸に、カードの利用単価の上昇とメインカード化を図る。調査会社J.D.パワージャパンの調査でも、ポイント経済圏にとって投信残高ポイント付与などの重要性が増していることが示されている。証券ビジネスと連携することがカードにとっても重要な時代になってきている。 後発の2社の参入により、クレカ積立市場は新たな局面を迎える。新NISAを追い風に各社が低コストインデックスファンドでの顧客基盤拡大を急ぐ中、松井証券とJCBはアクティブ投信による富裕層の開拓という異色の戦略で挑む。投資残高に応じたポイント還元という独自の仕組みと、JCBブランドの組み合わせで、市場の分断線が鮮明になる。 インデックス投資の大衆化という流れの一方で、投資ニーズの二極化も進む。JCBもクレカ積み立てに本腰を入れ始めたことで、カード会社を巻き込んだ資産運用ビジネスの変革が、新たな段階に入る。 (斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)
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