松井証券×JCBが挑むクレカ積立 赤字は避けられないのに、なぜ勝負するのか
“永遠に赤字”から一転、販促投資と割り切り
「やったとしても半永久的に赤字になってしまい、長続きしない」。松井証券の和里田聰社長は2021年のインタビューで、クレカ積立への参入について否定的な見解を示していた。それが一転、参入を決めた理由は何か。同社マーケティング部長の増田雄亮氏は「特に新NISA開始以降、お客さまからの問い合わせが急増した。ニーズに応える意味合いで、実現を決めた」と説明する。 クレカ積立が収益面で厳しいのは、仕組み上の制約がある。顧客が投資信託を購入する際、証券会社は加盟店としてカード会社に手数料を支払う必要がある。通常の加盟店手数料は3%程度だが、投資信託ビジネスは薄利多売。そのため手数料は大幅な引き下げが必須となる。カード会社(イシュア)は加盟店手数料の中から、ネットワーク利用コストなどの運営コストを支払い、残りから顧客還元を行う。顧客に1%のポイントを還元するのは、証券会社、カード会社ともに厳しい。 「やはりコストは一定かかる」と増田氏。しかし同社は今回の取り組みを「広告宣伝費」と位置付け、JCBとのシナジー効果も含めて投資回収を図る方針に転換した。カード会社側も「一般的には、そこだけ切り取ってみると、採算面で厳しい部分があった」(JCBの山氏)としながらも、「お客さまのニーズが高まってきた中で、なんとか実現したい」と判断したという。 両社とも単体での収益性は求めない。その代わりに、クレカ積立を入り口とした新規顧客の開拓や、既存顧客との取引拡大を目指す。後発ゆえの課題を、販促投資と割り切ることで克服する戦略だ。
買付・保有の“二重還元”で勝負
では還元率を上げることなく、後発でどうこのシビアな戦いに挑むのか。増田氏は「二重の還元」を掲げる。クレカ積立による買付時の還元に加え、投資信託の保有残高に対して最大1%のポイントを付与する仕組みを武器にする。「クレカ積立だけのスペックで競争するのではなく、総合的なサービスで勝負したい」と狙いを説明する。 投資信託の残高に応じたポイント還元は、ネット証券各社が提供している。ただし、その最大還元率でトップを走るのは、実は松井証券だ。投資信託では、投資家は毎年、運用の対価として信託報酬を支払う。この信託報酬は運用会社、信託銀行、そして販売した証券会社で分け合う仕組みだ。松井証券の特徴は、この販売会社取り分を全額、顧客にポイントで還元する点にある。 この仕組みは、アクティブ運用の投資信託への投資で特に効果を発揮する。信託報酬が高いファンドほど販売会社の取り分も大きくなり、結果として顧客への還元率も高くなるためだ。一般的にアクティブ型の投資信託は信託報酬が高く設定されており、還元額は大きくなる。例えば、人気の低コストインデックスファンド「オルカン」では投信残高に対する還元率は0.0175%、100万円投資しても年間175円の還元にすぎない。 一方、松井証券での資金流入ランキング1位となっている「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)」では、信託報酬1.727%のうち0.75%がポイント還元される。100万円の投資なら年間で7500円が還元されるわけだ。つまり、信託報酬は高めだが、その分還元額も大きい。結果として、信託報酬の高いアクティブファンドは松井証券で購入するのが得策という状況が生まれている。 投資信託の残高に応じたポイント還元は、2023年末から本格的に展開している。効果は着実に表れており、投資信託の残高は1年で1500億円から3000億円へと倍増した。売れ筋ファンドの顔ぶれも変化し、当初は低コストのインデックスファンドが上位を占めていたが、徐々にアライアンス・バーンスタインなど信託報酬が比較的高いアクティブ型投信の人気が高まってきた。