なぜ中谷正義はロマチェンコに9回TKO負けし“世紀の番狂わせ”を起こすことができなかったのか
中谷は右のジャブで“カーテン”を作ろうとしたが、ロマチェンコは、そのジャブをくぐるようにして右にダッキングして頭をふり、即座に体の位置を変えて左ストレートを次々と命中させた。 インサイドに入ると、ロープにつめて連打。中谷は、右のボディに突破口を見出だそうとするが、元王者の巧みなボディワークの前にことごとくポイントを失っていく。 「彼は身長が高く、リーチが長い。あらゆる面で私を優っていた。だからカウンターアタックを重視したんだ」 ロマチェンコは強引に接近するのではなく、中谷を警戒し、その動きを利用しようとしていた。中谷はタイミングと距離を把握された。 5ラウンドには、左フックの連打から押し倒されるようにしてダウン。中谷はスリップをアピールしたが、レフェリーは認めなかった。 ロマチェンコの攻撃になす術を失った中谷は、クリンチで封じようとするが、ロマチェンコの特長とも言えるサイドへの素早い動きと、抜群のボディアクションで、体を回され、クリンチさえも通じない。6ラウンドに右フック、左ストレート、右フックのトリプルコンビネーションを浴びる。中谷の両目の腫れが目立ち、鼻血も。7ラウンドのインターバルではドクターチェックも入った。 ロマチェンコは、ラウンドの中で休む時間を作りながら、フィニッシュのタイミングを見計らっていた。中谷が最後の勝負をかけてくるのを待っていたのである。 米の専門機関「コンプボックス」によると、ロマチェンコは合計214発のパンチを繰り出してヒットが104発。一方の中谷は250発と繰り出したパンチ数で上回りながら、ヒットは29発しかなかった。特に112発出したジャブのうちヒットしたのはわずかに3発。ロマチェンコはガードと、打った後に、左右に位置を変え、その場所にいない、まるでテレポート術でも持っているようなテクニックと、ボディコントロールで何もさせず、そして計算尽くのパンチを毎ラウンド積み重ねたのである。 「状態は万全でした。私はカウンターをうまく使うことに集中した。試合をコントロールできてよかった」