ジョブズ「30秒の決断」。Appleの未来を決定づけた「1つの質問」
1997年のこと。映画館ではザ・エージェントが上映され、ブレット・ファーヴ率いるグリーンベイ・パッカーズがスーパーボウルで優勝したばかりでした。 Appleは大きな問題を抱えていました。技術は未完成、市場シェアは減少を続け、採算は取れない。今日、思い浮かべる企業と同じ会社だとは思えません。 こういった問題はどれも、スティーブ・ジョブズの責任ではありません。ジョブズは1985年にAppleを解雇されています。Appleはそのころ、ジョブズがのちに設立したNeXT社を買収しており、ジョブズはピクサー社のCEOとして多忙な日々を送っていました。 その時、エドガー・ウーラードからジョブズに電話が。デュポン社の前CEOであるウーラードはアップル取締役会会長に就任していました。しかし、二人には面識はなかったのです。
Appleの未来を決定づけた「1つの質問」
ウォルター・アイザックソンが伝記『スティーブ・ジョブズ』で伝えているように、電話はウーラードがジョブズにデラウェアでのスピーチを依頼するためのもの。 しかし、それは単に言い訳に過ぎませんでした。本当の目的は、AppleのCEOに就任した人物、ギル・アメリオについて厳しい質問をすることだったのです。 その電話の間、心の中に思い浮かんだことをジョブズは振り返っています。 ギルはまぬけだと真実を告げるべきか、嘘でごまかしておくべきか迷った。 ウーラードはAppleの取締役であり、私の考えを正直に伝えておかなければならない。だがウーラードに話せば、そのままギルに伝わるだろう。そんなことになれば、ギルはもう私の意見に耳を貸さなくなり、私がAppleに招き入れた人たちをのけ者扱いするだろう。 こういった考えが、ほんの30秒のうちに頭の中を駆け巡った。 だが最後には、ウーラードには真実を伝えておく義務があると判断した。私はAppleを本当に大切に思っていた。だから、必要な情報を伝えた。これほど最悪のCEOにお目にかかったことはない。もしCEOのライセンスがあったら、取得することはできない人物だと。 電話を切ったとき、おそらく自分は本当にバカなことをしてしまったなと思った。 今になって分かったことがあります。ウーラードは、まだApple取締役会に加わって一年も経っていませんでしたが、会社がまさに「死のダイビングの途中」だと確信していました。 ウーラードはアメリオに招かれて取締役会に加わったのですが、生き残るにはジョブズを呼び戻すしかないと結論づけていたのです。 案の定、その電話の直後に、シリコンバレーではジョブズがアメリオの後釜を狙っているという噂がながれました。(おまけに、アメリオがのちに回想録『アップル薄氷の500日』で記しているように、ジョブズとウーラードは友人となっています。) 数カ月後、ウーラードは数日間で長距離電話料金に二千ドルも使うことになります(その時、彼はウインブルドンのテニス・トーナメントにいました)。ウーラードはアメリオを外すように取締役会を説得していたのです。 その後、すぐにジョブズはAppleに復帰しました。当初はアドバイザーとしての復帰でしたが、最終的にはCEOに就任することになります。