クルマから降りたくなくなるほど走りが楽しい! ポルシェ・パナメーラと同カイエンGTSクーペに島下泰久が試乗 内燃エンジンのポルシェだからこそ、味わえる喜びとは?
ひとつだけ不満があるとすれば、それは・・・
EV一辺倒から、内燃エンジンにも注力すると表明したポルシェ。モータージャーナリストの島下泰久さんが、モーターを持たない純エンジン車のパナメーラとカイエンGTSに乗り、ドライバーズ・カーとしてのポルシェをあらためて見つめ直してみた。 【写真16枚】アグレッシブな見た目になったカイエンとパナメーラ 見た目も走りも内燃エンジン・ポルシェの味はやっぱり違う! ◆EV一辺倒から揺り戻し ポルシェがドライバーズ・カーだなんて、改めて言うことじゃないだろうと思われるかもしれないが、これだけラインナップの幅が広がり、時代が揺れ動けば、そこに多少の濃淡が生じもする。とりわけカイエンやパナメーラについては、近年ではEVに移行する次期型や、ダウン・サイジングやPHEVの話ばかりがクローズアップされ、走り云々という話は置き去りにされていた感が、正直なところ否めない。 しかしながら、それこそ時代がEV一辺倒から揺り戻し、内燃エンジン搭載車にも引き続き注力していくとポルシェ自身が表明する中で登場した新しいカイエン、そしてパナメーラは、まるで憑き物が落ちたかのように、ドライバーズ・カーとしての息を吹き返してきた。いずれも基本骨格を従来モデルから踏襲する新型だが、それ故に入念に作り込まれた深く濃い味わいが宿る、心躍る存在に仕上げられていたのだ。 ◆迫力のパナメーラ まずはその顔面の迫力に思わず気圧されてしまったのが新型パナメーラである。ヘッドライトは大きくなり、開口部は全幅目一杯までワイドに。ラジエーター・グリルのスリットも増やされて、いかにも大容量の空気を導き入れそうな、エンジン車らしい雰囲気が高められている。一方で、微妙に手が入れられたフォルムは変わらずスリーク。他の何物とも似ていない個性が確立されている。 試乗車はエントリー・グレードのパナメーラ。エンジンは最高出力353psを発生するV型6気筒3リッター・ターボで、後輪駆動のモデルである。 その走りも、やはり軽やかさが引き立てられていた。意のままに操れる。まさにそんな感覚だ。 特に唸らされたのが饒舌なステアリング・フィールだ。思えば先代の登場当初は、ステアリング・アシストなどの制御要因が増えたせいか、操舵感にやや雑味が感じられたものだが、新型のそれはポルシェらしい骨太な、それでいてクリアなフィーリングで、クルマとの一体感をより強く感じることができる。試乗車にはリア・アクスル・ステアリングも備わっていたが、こちらも違和感とは無縁だ。 後輪駆動モデルということで、雨の中を飛ばした時の前輪の接地感は、そこまで濃密ではない、ということも掌にしっかり伝わってくる。旋回時も同様で、常に前輪のグリップを探りながらの運転となるが、それは決して難儀なことではない。むしろ、そうした場面にまで自らクルマを操ることの醍醐味が宿っているのがドライバーズ・カーたる所以。駆動方式もエンジン型式も違うのに、どこか911との血縁も感じさせる。 ◆シャシーが速い エンジンは6800rpm辺りのトップ・エンドまで淀みなく吹け上がるが、ピックアップはさほど鋭いわけではないしパワーもそこそこ。但し、パナメーラの場合はシャシーが速過ぎると言うべきかもしれない。その代わり、前が空いたらパドルを弾いて思い切りアクセラレーターを踏み込める。その点でも、やはり運転に積極的に関与する歓びがあると言えるだろう。 感じたのは、パナメーラが若返ったということ。全身鍛え直して引き締まり、まるで911のような感覚にまで走りを研ぎ澄ませた。素のパナメーラは、そんな進化をもっともストレートに味わわせてくれたのだ。 ◆赤いカイエンGTS カーマインレッドのボディカラーをまとった新しいカイエンGTSクーペが、俄然スポーティさを増して感じられたのは、ホイールアーチ・エクステンションやサイド・スカートがブラック仕上げに改められた効果が大きい。遠目にはボディがより薄く、低く見えるというわけである。 カイエンもパナメーラもダッシュボードは完全に刷新されていて、フードレスのメーターデザイン、インパネ・シフト、ボタン式のスターターなどが採用されている。始動とともに大音量のエグゾースト・ノートが響き渡り、ちょっと気恥ずかしい気分になったが、このカイエンGTS、走りの印象を支配するのはまさしくこのエンジンだ。 こちらも電動化されていないV型8気筒4リッター・ツインターボ・エンジンの最高出力は500psに達する。474psのカイエンSとの差はわずかだが、GTSはエンジンだけでなくシャシーも専用とされる。 日本未導入のターボGTから流用されたフロント・アクスル・ピボット・ベアリングにより、ネガティブキャンバーを0.58°拡大し、10mmのローダウンを実施。アダプティブ・エア・サスペンション、PTV Plusなども標準装備とする。試乗車はリア・アクスル・ステアリング、可変スタビライザーのPDCCまで備えていた。 どこからでもすぐさま欲しいだけの力を引き出せる凄まじい瞬発力が、GTSの最大の魅力である。あふれるほどのパワーとトルクは時に余裕となり、時に刺激となる。しかも、硬質なV8サウンドまで伴うのだから、右足を遊ばせてなどいられない。 8段ティプトロニックは、変速の切れ味を増したようだ。これもまたダイレクトなドライビング感覚を引き立てるポイントである。 ◆素晴らしいフットワーク フットワークも、やはり打てば響くレスポンスが光る。特にSPORTモードに入れた時の切れ味鋭いターンインは、SUVであることを忘れさせるほど。それでいてガチガチに固め過ぎてはいないから乗り心地もしっとりとしていて快適なのだ。 新しいカイエンGTSの走りには高性能SUVの代名詞だったかつてのカイエンが帰ってきたかと思わせるような充足感が漲っている。しかも闇雲にパワーを追うのではなく、自ら操るドライバーズ・カーとしての側面を強めた進化を果たしていることが、私を嬉しくさせた。 新型では純エンジン車のターボやターボGTは導入されない。しかしながらGTSがこの出来映えならば、文句など出る余地は無いだろう。 生憎の雨の中での試乗となったが、2台の新しいポルシェはいずれもクルマから降りたくなくなる走りの楽しさ、歓びをストレートに実感させてくれた。ドライバーズ・カーとしてのポルシェ、復権と言ってもいい。 しかしながら、これだけドライバーを鼓舞する走りを手に入れただけに、ひとつだけ苦言を呈しておきたい。エンジン・スタートが味気ないプッシュ・ボタン式に改められたのは、やはり改悪だろう。従来はノブをひねる瞬間から気分の昂揚を感じたものである。速さよりも心満たす歓び、ドライバーズ・カーには、そうした部分も大事だと思うのだ。 文=島下泰久 写真=望月浩彦 ■ポルシェ・パナメーラ 駆動方式 エンジン縦置き後輪駆動 全長×全幅×全高 5052×1937×1423mm ホイールベース 2950mm 車両重量 1910kg エンジン V型6気筒DOHCターボ 排気量 2894cc 最高出力 353ps/6800rpm 最大トルク 500Nm/1900~4800rpm 変速機 ツインクラッチ式8段自動MT サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/エア サスペンション 後 マルチリンク/エア ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク タイヤ 前 後 275/35ZR21 325/30ZR21 車両本体価格 1424万円(試乗車は1980万円) ■ポルシェ・カイエンGTSクーペ 駆動方式 エンジン縦置き4輪駆動 全長×全幅×全高 4930×1983×1674mm ホイールベース 2895mm 車両重量 2260kg エンジン V型8気筒DOHCツインターボ 排気量 3996cc 最高出力 500ps/6000rpm 最大トルク 660Nm/2100~4500rpm 変速機 8段AT サスペンション 前 マルチリンク/エア サスペンション 後 マルチリンク/エア ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク タイヤ 前 後 285/40ZR22 315/35ZR22 車両本体価格 1923万円(試乗車は2240万6000円) (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部
【関連記事】
- ゴルフGTIはボディで曲がる、メガーヌRSはリア・サスペンションで曲がる、ではシビック・タイプRは何で曲がるのか? ホットハッチ頂上決戦 山野哲也が判定を下す!
- スポーツカーの本質、ライトウエイトスポーツ対決! 日本代表マツダ・ロードスター vs アルピーヌA110 エンジンHOT100ランキングの1位と2位が激突【前篇】
- こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
- 悪路性能、頂上決戦! 日本代表トヨタ・ランドクルーザー250 vs 世界選抜ジープ・ラングラー&ランドローバー・ディフェンダー 本格派ゆえ心して乗るべし!!
- 森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わった築74年の祖父母の日本家屋 建築家と文筆家の夫妻が目指した心地いい暮らしとは?