マイルス・デイヴィスとフェラーリ「308GTSi」|ジャズの帝王が愛したスーパーカー
1月11日から連続して、NHK FMで放送されたマイルス・デイヴィスの特番『ジャズマイルス』は、多くのリスナーにとってマイルスの音楽的な才能と偉大さを再確認させるものとなったことでしょう。マイルス・ディヴィスの音楽には、ジャズの新しい地平を切り拓いた革新性が宿り、彼のトランペットの音色は聴く者の心に深い爪痕を残してくれます。その才能と独自の音楽スタイルは、時を超えて多くのファンを引きつけ続けています。 【写真で振り返る】マイルス・デイヴィスが所有していたフェラーリ「308GTSi」 そんなマイルスは「モダンジャズの帝王」にして、同時にスーパーカーの愛好者であったことは、彼の多様性と深い魅力をさらに際立たせます。その中でも、彼がかつて所有していた1980年型フェラーリ「308GTSi」に関するエピソードは特に興味深いものとなっています。
記事を担当した自動車ライター、アンドリュー・ウェンドラーいわく、 「アメリカの文化意識の欠如を示す悲しい実例」
このとき売り手となったのはBeverly Hills Car Club(ビバリーヒルズ・カークラブ)で、eBayおよびその他の手段でマイルス・デイヴィスのこの遺産を競売にかけました。そして、売り上げの一部をThe Grammy Museum(グラミー博物館)とその財団に寄付しています。ですが出品されたときにそこには、「Celebrity Owned(有名人所有)」「Jazz Musician(ジャズ・ミュージシャン)」というだけのタグが付与されているだけでした。 このことから、「偉大なアーティストの1人であるマイルスの名前と、その彼のキャリアも知らないまま購入してしまう可能性も低くない」という懸念も微妙にありました。が、それはアメリカのジャズ・ミュージシャンでフェラーリを代表とするスーパーカー好きと言えば、「マイルス・デイヴィスしかいないでしょ」という発想できる人にしか購入させたくない…という思惑もあったのかもしれませんが、今となってはわかりません。 気まぐれな性格で有名なことから 、“Prince of Darkness(闇のプリンス)”とも言われていたマイルス。これは1967年にマイルス率いるクインテッド(+サクソフォン:ウェイン・ショーター、ピアノ:ハービー・ハンコック、ドラム:トニー・ウィリアムス、ベース:ロン・カーター)がリリースしたアルバム、「Sorcerer」(魔術師の意)の最初の楽曲『Prince of Darkness』楽曲名でもあります。 そんなマイルスは自らとの親和性を強く感じたのでしょう、いわば偉大なる“気まぐれ”イタリアスポーツカーを愛し、この1980年型のフェラー「308GTSi」を代表に、このほかフェラーリ「275GTB/4」、フェラーリ「テスタロッサ」、ランボルギーニ「ミウラS」などを所有していました。当時のebayにこの「308GTSi」は「走行距離は9589マイル(約1万5432キロ)」とされていたので、それでも比較的静かな生涯をおくった1台のようです。 基本的にこの車は、1973年に先行デビューしていた2+2クーペの「ディーノ 308GT4」をベースに2シーターのミッドシップスポーツカーとして、1975年のSalon de l'Auto(サロン・ド・ロト=日本では 「パリサロン」と呼ばれていた)でデビューした「308GTB」の系譜としています。ちなみにGTBの「B」は、イタリア語の「ベルリネッタ」で「クーペ」を意味します。 当時、年々厳しくなる排ガス規制に対応するため、フェラーリは1980年には燃料供給装置を機械式燃料噴射「インジェクション式(Kジェトロニック)」に変更したものとして「308GTBi」と「308GTSi」を登場させ、従来のキャブレター式モデルを廃止します。1982年には、エンジンヘッドを4バルブにしたモデル「308 クワトロバルボーレ(308 Quattrovalvole=イタリア語で4バルブの意)が追加されます。そして1985年のフランクフルトモーターショーにて後継車として「328」が発表し、10年にわたる生産・販売を終了します。 ボディカラーのGiallo Fly(ジアッロ・フライ=「イエロー・フライ」とも言われる)は、フェラーリにとって「第2の魂」とも言えます。この色はファラーリの故郷モデナの色であり、戦争の英雄となった当時イタリア空軍のエースパイロットであるフランチェスコ・バラッカの紋章から受け継がれた跳ね馬(カバリーノ・ランパンテ)と共に、世界で最も有名なフェラーリのアイコンの一部となっています。フェラーリの顧客の間でも人気の高いカラーの1つです。 そんなカラーのボディに、伝統的なゲート式シフトで操作する5速マニュアルトランスミッションを搭載。さらに新車時に付属していたスペアタイヤやジャッキ、ツールキットが付属していました。