1校1000万円、「DXハイスクール」1000校指定の狙い 背景に「デジタル・グリーン成長分野」人材育成
開設必須の「情報2等の教科・科目」の幅は広い
では、具体的にDXハイスクールではどのような支援をするのか。今回、公立・私立、普通科高校・専門高校などを問わず全高校に申請資格がある。そのうち1000校程度を採択し、1校当たり補助上限額1000万円の定額補助を行うという。 支援対象例として、ICT機器(ハイスペックPCや3Dプリンタ、動画・画像生成ソフトなど)や遠隔授業用を含む通信機器の整備のほか、理数教育設備や専門高校の高度な実習設備の整備、専門人材派遣の業務委託費などを挙げており、「機器の費用だけでなく、人件費や委託費、旅費など支援人材に関わる費用も対象経費になります」と田中氏は説明する。 高校が申請に当たって必須となる要件は2つある。1つ目は、「情報2等の教科・科目の開設等」だ。 「情報2等」とは、情報2だけでなく、数理・データサイエンス・AIの活用を前提とした実践的な教科・科目および総合的な探究の時間や、情報2の内容を含めて指導を充実させた職業系の教科・科目をさす。 こうした教科・科目を2024年度の時点で開設済みで、2026年度までに受講生徒数の割合を全体の2割以上にすることを目指す高校は、この要件に該当する。また、「情報2に相当する内容を含む大学等の科目を履修」している高校や、他校の遠隔授業を受信している高校も開設済みと判断されるという。 さらに、現時点で情報2等の開設をしていなくても、2024年度中に検討をスタートし、2026年度までの開設と受講生徒数の割合を全体の2割以上にすることを早期に目指す高校も、要件をクリアしているとみなされる。 開設すべき教科・科目の幅は広いといえそうだ。この点について田中氏は、「情報1は2年前から必修科目となりましたが、その発展科目となる情報2は選択科目。そのため履修者が増えない可能性もあり、情報2を高校教育にきちんと浸透させていきたい狙いがあります」と語る。 申請に当たってのもう1つの必須要件は、「デジタル環境の整備と教育内容の充実」だ。デジタルを活用した課外活動や授業を行うための設備を配備したスペースを整備し、教育内容の充実、探究的な学び・STEAM教育などの文理横断的な学びの機会の確保、対話的・協働的な学びの充実を図ることが求められている。 「いわゆるデジタルラボですね。パソコンルームをアップグレードしてもらうイメージで、1人1台端末ではできない高度な動画編集やアプリづくりができるような場をつくり、生徒たちに使ってもらえるようにしてほしい」 選考は得点方式となっており、こうした必須要件のほかに、加算項目として、「理数系科目の充実」「情報・理数系学科・コースの充実」「文理横断的な新しい普通科の設置」「特別支援学校の学びの充実」「多面的な入試の実施」も設けられている。 「デジタル・理数系分野は外部人材の活用が重要だと考えており、例えば、プログラミングの学習支援をする企業に委託して授業を強化する、デジタル系の大学の教員や院生などと連携しながら授業や教員研修を行うなどもポイントアップの対象です。こうした加算項目の取り組みも計画していただけると、選考の際に評価が高くなります」 今回、全国の高校を対象としているため、地域間の格差が起こらないようにすること、熱心な高校には積極的に支援することを両立するため、2つの枠を用意した。 1つは「都道府県基礎枠」。これは都道府県ごとに、公立・私立の比率を踏まえて公立学校分と私立学校分の数を定めた基礎枠だ。この基礎枠の範囲で、得点上位の学校から順に採択校を決定する。そして、もう1つは「全国枠」だ。こちらは申請要件を満たすものの、都道府県基礎枠から漏れてしまう学校について、得点上位の学校を予算の範囲内で採択校とする枠となる。 公募期間は2月末までと短いが、情報や文理横断的・探究的な学びを強化したい学校は、この支援を活用しない手はないだろう。田中氏は次のように話す。 「単年度の事業ですが、整備された機器や設備の継続的な活用が重要であり、探究の質の向上や文理両方の素養を育む教育が広がることを願っています。大学との連携が進むよう大学側にアプローチするなど、文科省でも必要なバックアップはしていきたいと考えていますので、ぜひ手を挙げていただき、今回の支援を活用して高校教育を変えていってほしいと思っています」 (文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部