先輩に見守られながら船体にさび止めの塗料を塗る若手船員＝８日、鹿児島新港

　鹿児島県内の旅客船や貨物船事業者が船員不足に悩まされている。国土交通省の調査では、２０２２年の国内船員数は５０年前と比べ６割以上減少し２万８０９７人、５０歳以上が半数近くを占める。少子高齢化が進む中、拘束時間の長さやスマホがつながらない通信環境などを敬遠する若者は多く、事業者は「このままでは人もモノも運べなくなる」と危機感を募らせる。海洋県・鹿児島に欠かせない「海の道」の維持へ模索を続ける。 【写真】運航前に操舵室の機器の動作を確認する船員＝８日、鹿児島市の鹿児島新港

　「船員の休みを確保するため苦渋の決断だった」－。鹿児島と屋久島を結ぶ「フェリー屋久島２」を運航する折田汽船（鹿児島市）の折田新吾常務（５２）は振り返る。毎日１往復する同船だが、急な離職が相次ぎ５月から月７日程度、欠航せざるをえなかった。 　欠員が生じたのは操船や貨物の積み降ろしを担う甲板部。１０人がローテーションを組み、１回の運航で７人が乗船していた。３～４月に３人が離職したことでシフトが組めなくなった。 　採用活動は難航したものの、どうにか２人を採用。８～１０月は繁忙期を除く日曜日は運休する。日曜は旅客と貨物利用が少なく燃料高も考慮した。折田常務は「生活航路を守る手段」と話し、引き続き採用活動に力を入れる。 ■　□　■ 　国内港を結ぶ内航船は、主に旅客と貨物輸送に分かれており、原則いずれも日本人船員しか勤務できない。２２年の船員労働統計などによると、内航船員の賃金は月４８万４２１円で他業種平均の３４万１００円を大幅に上回る。しかし県内事業者らは「今の若者は給料より休日や労働環境を重視している」と口をそろえる。

　鹿児島内航海運組合によると、貨物船の勤務形態は２～３カ月の乗船と１カ月ほどの休養日を繰り返すケースが多い。航路によっては陸上の電波基地局から離れるため休憩中にスマホが使えず、若年層から敬遠される傾向にある。 　それらに加え「人材育成も難しい」と語気を強めるのは、同組合理事長で芙蓉海運（同市）の原田勝弘社長（６９）。運航業務に携わるには、部署ごとに必要な国家資格があり、受験要件には補助員として一定期間の実務が必要となる。 　原田社長は「小さな事業者には、余分に船員を乗せる経営体力はない」。物価高のほか造船員も減少しており船価も上昇傾向で、「老朽化した船の更新を機に廃業を考えている事業者も多いはず。このままでは物流が滞る日も近い」と危惧する。 ■　□　■ 　船員確保へ向け、新たな取り組みを始める事業者もある。志布志－大阪航路を持つ商船三井さんふらわあ（東京）は、低軌道衛星を使う高速通信システムの導入を進める。安全運航や業務効率化に限らず、休息時間にはスマホでの動画再生やゲームも楽しめるようになった。船舶二部海務ＩＳＭグループの浜口大祐部長補佐（４１）は「若手にとって、陸上と遜色ない労働環境は企業を選ぶ一つの判断材料になるはず」と期待する。