知的、精神障害がある人がホウレンソウ栽培 福祉事業所から社会的企業に…「月収」は7倍に
障害や病気、ひきこもり経験など様々な事情で就労が難しい人たちのため、新たな雇用の場が広がっている。「働きたい」という意欲に応え、自立を後押しする取り組みだ。まずは、就労困難者がサポートを受けながら、一般の従業員とともに働くソーシャルファーム(社会的企業)の現場から報告する。 【図解】ソーシャルファームと福祉の就労支援事業所の位置付け
ビニールハウス14棟が立ち並ぶ宮城県美里町の「ソーシャルファーム大崎」の野菜工場。7月下旬、知的障害や精神障害のある従業員計11人が汗をぬぐいながら、ホウレンソウの苗の植え付けや出荷作業をしていた。 工場の前身は、障害者が一般企業への就労を目指してトレーニングをする福祉事業所だ。運営する社会福祉法人「チャレンジドらいふ」(仙台市)が、「福祉で支えられるのではなく、企業の従業員として責任を持って働ける場にしたい」と、今年3月に工場を設立した。日本財団と県の支援事業を活用し、ビニールハウスなどの建設費約2億7000万円と、運転資金1000万円の補助を受けた。 福祉事業所だった時、障害者は利用者という立場で通っていた。ダイレクトメールの封入やカレンダー制作などの軽作業が中心で、ノルマはなかった。1日4時間ほど従事し、月1万円程度の工賃を受け取っていた。事業所の運営費や、支援にあたる職員の人件費は、国や県などから支給される年約3600万円で賄っていた。 一方、社会的企業になってから経営は独立採算となった。ホウレンソウを年間約55トン生産し、4500万~5000万円を売り上げるのが目標だ。 従業員は、工場長の菊地真寿美さん(53)が見守る中、水耕栽培用の棚に開いた穴に苗を植えていく。水や肥料は自動的に与えられるため、農業に関する特別な技術はいらない。ただ、品質の良いものを育てて取引先の発注に応じた数量をそろえ、納期も守らなければならない。 従業員は1日4時間のパート勤務になり、責任が重くなったが、最低賃金以上の給料を受け取れるため、仕事への意欲も高まったという。 阿部芳樹さん(26)の手取りは月約7万円になった。習熟すればフルタイム勤務になるため、「早く仕事に慣れて給料が増えたら、一人暮らしをしたい」と笑顔を見せた。