“アベプラの猛獣使い”テレ朝平石アナの円滑なコミュニケーション術「世の中の分断を改善したい」
報道番組を中心にキャリアを積んだ入社28年目
テレビ朝日の平石直之アナウンサー(50)が、9月に著書『マンガでカンタン! ファシリテーションは7日間でわかります。』を出版した。1997年に入社し、報道番組を中心にキャリアを積んできた平石アナは現在、同局系『グッド!モーニング』で土曜日、日曜日のMCを担当。新しい未来のテレビ・ABEMAのニュース番組『ABEMA Prime』(以下、『アベプラ』)では司会を務め、個性派ぞろいの出演者をまとめる「アベプラの猛獣使い」という異名を持つ。身に付けているのは、円滑なコミュニケーションで会議などを活性化させるファシリテーション。ENCOUNTは、その技術のポイントを聞きつつ、平石アナの人物像に迫った。(取材・文=福嶋剛) 【写真】「生の平石アナに会えて感動」テレ朝平石アナ『マンガでファシリ』出版イベントの様子 テレビ朝日入社28年目。アナウンサーとしてベテランの域にいる平石アナは、もともとは新聞記者を目指していたという。 「大学に入ったあたりから世の中の動きに関心が強まり、ニュースや新聞をチェックするようになり、『これってどういうこと』と頭の中であれこれ考えて、自分なりに整理するというか、その物事の意味を考えるようなことをしていました」 大学時代はアルバイトでテニスのコーチを経験。これが、方向転換のきっかけになった。 「生徒さんそれぞれにモチベーションは違うので、コミュニケーションが大切だと思い、『相手の気持ちを邪魔しない』『余計なお節介をしない』『シンプルに面白く』『分かりやすく伝える』と、相手を中心に考えて、楽しんでもらうことを意識するようになっていきました。すると、私自身もそうしたやりとりが楽しく、『しゃべった方が人にうまく伝えられるかも』と手応えを感じ、新聞社よりも早く試験があったアナウンサー試験を受けることにしました。当時は『ニュースステーション』や『サンデープロジェクト』といった報道番組を見ていたので、『自分も分かりやすく面白くニュースを伝えたい』と思い、テレビ朝日を志望しました」 アナウンサーとして入社後は、報道番組を中心にキャスターや記者としての日々を重ねた。 「入社した頃、田原総一朗さんの鋭い質問の裏にある豊富な情報量を知って、いかにベースとなる知識や情報収集が大切であるかを学びました。『自分だったらどんな質問をぶつけるだろう』とあれこれシミュレーションをしていた思い出があります。『ニュースステーション』『報道ステーション』『スーパーJチャンネル』では、短時間で分かりやすくまとめることを学びました。ニューヨーク支局時代や帰国後は、アメリカ大統領選挙なども取材。ドナルド・トランプ氏が勝利した2016年の選挙では、真っ二つに意見が割れる市民の声にとまどいながらも、柔軟に耳を傾け、それぞれの立場に立って考えてみることの大切さも学びました。そうした経験が今につながっています」 19年には、『アベプラ』の3代目進行役に就任。『みんなでしゃべるとニュースは面白い』をキャッチフレーズに、世の中の身近な話題から「性の問題」「宗教」「障がい」といった繊細なテーマまで丁寧に深堀りし、毎回活発な議論を繰り広げている同番組を巧みに進行している。 「話すことが得意なコメンテーターやゲストが多いので、当初は出演者のしゃべりに任せていましたが、話は面白くてもテーマがぼやけてしまい、番組視聴者からも『仕切りが甘い』というご意見をたくさんいただきました。それがきっかけで、私自身の経験も生かして、必要があれば積極的に介入する形で挑戦していこうと、やり方を変えました」 『アベプラ』の進行で大切にしていることを聞くと「違う考えの人もいることを理解する」「個人攻撃や過度な批判から参加者を守る」「分断を生じさせないこと」などを挙げた。 「私は大阪で生まれ、9歳の時に佐賀に引っ越し、18歳で上京。入社後にはNY支局勤務も経験しました。そうしたなかで感じたのが『できあがっているコミュニティーにはそれぞれ理由や意味がある』ということです。そこで暮らす人たちの中には『やり方を変えたくない』『余計なことをしないでほしい』という人もいて、無理やり人の意見を変えようとせずに『違う考えの人もいるよね』と相手の意見を1度受け入れて理解するところから始めることの大切さを学びました。人の意見は、右や左といった0―100の話ではなく、真ん中あたりのぼんやりしたところに多く集まっています。私はそうしたグラデーションのある、あいまいな部分をうまく言語化して伝えたいと思っています。加えて出演者の尊厳を傷つけることのないよう、寄り添いながら話を聞き、うまく着地点を見出して、放送としてきちんと成立させることを心がけています」