【なぜこの低価格が実現できたのか】ネットで話題「ドンキのサバ缶」の秘密を ”缶詰の専門家” が解き明かす!
■そぼろ状にして料理原料にしてみよう
まずは下拵えであります。汁を切ったサバの身(全量)に、ニンニクとショウガの千切りを加えて、油をしいた鉄板(フライパンでも可)でほぐしながら炒める。サバの水分が減り、柔らかいそぼろのような状態になればOKだ。これで料理2品の原料が缶成(完成)。 そぼろ状にした理由は、脂が乗った腹身と、そうではない背身を混ぜたかったから。これでどこを食べても食感は均一になったはずだ。 なお、1品はサンドイッチにするので、同じ鉄板の端でバゲットも焼いておいた。
■バターでジューシーさを補ったサバサンド
ということで、1品目はサバサンドになった。焼いたバゲットの両方の断面にバターをたっぷり塗り、サバのそぼろには粒マスタードを混ぜて味付け。それを生タマネギと一緒に挟んだのであります。 トルコにはサバサンドという名物料理があるが、あれは脂が乗ったノルウェーサバを使っているからおいしい。しかし、こちらは脂があまり乗っていないサバなので、バターの脂肪分でジューシーさを補ってみたのだが、これはこれでおいしかった。粒マスタードのおかげで洋風の味わいである。 このサバサンドを2人分作って昼食とし、残ったサバのそぼろは密閉容器に入れて一旦クーラーボックスで保冷しておいた。
■揚げ玉で油っけを補ったサバそぼろ飯
2品目はサバそぼろ飯にした。保冷しておいたサバのそぼろに、めんつゆを加えて甘辛く味付けし、白ごはんの上に盛りつけ。トッピングには揚げ玉と紅ショウガを登用した。 ニンニク&ショウガで下味を付けたサバそぼろに、濃いめのめんつゆが良く合う。そのままでもごはんが進む味だったけど、揚げ玉を加えたことでサクサク食感が加わった。同時に油っけも加わったから、サバのそぼろを最後まで飽きずに食べられた。 昼には洋風のサバサンド、夜に和風のサバそぼろ飯と、ベクトルの違う2品が作れた。サバ尽くしの1日でありました。
■ドンキのサバ缶の存在意義
ところで、このドンキのサバ水煮缶には、日本で水揚げされたサバが使われている。それをタイに送り、缶詰にしてから、また日本に戻しているわけだ。なぜ、そんな手間を掛けているのだろうか。 前述したように、缶詰なら日本よりもタイで製造したほうが安くなるという理由がひとつ(輸送費をかけても安い)。そのほか、日本では小型サバは食用として需要がないこともある。日本人は脂が乗った大型サバが好きだからだ。 考察すべき点はまだある。日本のサバ漁は、魚体のサイズに関係なくまとめて獲ってしまうが、それは悪習慣なのだ。産卵前のサバまで獲ってしまうため、将来の資源を食い潰しているような状態であり、昔から問題のある漁獲方法だと指摘されてきた。 そうして獲ってしまった小型サバは、基本的に養殖魚の飼料に利用されてきたが、それなら食べてあげる方が有効な活用法かもしれない。そう思えば、このドンキのサバ缶は存在意義があるのではないだろうか。 日本の漁業の問題。デフレ下においての低価格のありがたさ。そしてサバの使い途。いろんな意味で探究心をそそられる、ドンキのサバ缶なのであります。 ●今回の缶詰情報 ドン・キホーテ「鯖が2尾以上入ったさば水煮缶詰固形量280g、内容総量400g」 430 黒川 勇人(くろかわ はやと) 缶詰博士。1966年福島県福島市生まれ。東洋大学文学部卒。卒業後は証券会社、出版社などを経験。2004年、幼い頃から好きだった缶詰の魅力を〈缶詰ブログ〉で発信開始。以来、缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界53カ国の缶詰をリサーチ。 缶詰にまつわる文化や経済、人間模様も発信している。公益社団法人・日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認。「SDGs災害食大賞」「LOCAL FISH CANグランプリ」「未来の食卓アワード」審査員。 近著、初のエッセイ本『缶詰だよ人生は』(本の泉社)が絶賛発売中! 他『缶詰博士が選ぶ「レジェンド缶詰」究極の逸品36』(講談社)など。マイナビニュースに缶詰エッセイを連載中。
黒川 勇人