宇垣美里「ほろほろと涙がこぼれて」コロナ禍、移民など“分断”を映し父子の愛を描く
大切な人が、あるいは私が、新生物に変わってしまったら
人々は新生物を排除するか、共生の道を探るかで分断され、恐れを越えて嫌悪感のような過剰な反応を示す人々の姿はコロナ禍での混乱を彷彿(ほうふつ)とさせる。 心もまた獣の本能に支配されゆく新生物たちの様相に、私は認知症にかかり以前のその人ではもはやなくなってしまった親族のことを思い出した。他にも移民問題やルッキズムなど、様々な現実にある問題が新生物をとりまく人々に反映されている。 恐ろし気なルックに反して、後味はとても爽やか。冒頭と終盤の父子二人のドライブシーンの対比の鮮やかさといったら。彼らの力強い選択に温かさと少しの寂しさを感じ、ほろほろと涙がこぼれて仕方なかった。 大切な人が新生物に変わってしまったら、私はどうするのだろう。あるいは、私が変わってしまったら。見終わった後もずっと考えている。 『動物界』 監督:トマ・カイエ 脚本:トマ・カイエ/ポリーヌ・ミュニエ 出演:ロマン・デュリス ポール・キルシェ アデル・エグザルコプロス ©2023 NORD-OUEST FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - ARTEMIS PRODUCTIONS. 配給:キノフィルムズ <文/宇垣美里> 【宇垣美里】 ’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
女子SPA!