宇垣美里「ほろほろと涙がこぼれて」コロナ禍、移民など“分断”を映し父子の愛を描く
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。 【画像】奇病が流行する近未来のフランスが舞台の映画『動物界』 そんな宇垣さんが映画『動物界』についての思いを綴ります。 ●作品あらすじ:原因不明の突然変異によって、身体がだんだんと動物へと化していくパンデミックに見舞われている近未来。妻がその奇病にかかっている主人公だったが、16歳の息子の身体にも次第に変化が出始めた。奇病にかかった新生物と人間との分断が激化するなかで、親子が下した最後の決断とは…? フランスで観客動員100万人を超えるスマッシュヒットを記録した本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
動物に変化する人々の造形は恐ろし気ながら、その不穏さがどこか美しい
いったい何がその人をその人たらしめているのだろう。容姿か、心か、それともこの体を形作る細胞か。では、私に牙が生え、体表が毛に覆われ、言葉を持たぬ獣となった時、それは私、なんだろうか。 舞台は人間が動物へと変化していく奇病・アニマライズが流行している近未来のフランス。病にかかった人は“新生物”と呼ばれ、その凶暴性から施設で隔離されている。料理人のフランソワの妻・ラナもそのひとり。 フランソワは息子のエミールと共にラナが隔離のために移送される南仏へと移り住むが、ある日移送中の事故によって新生物たちが野に放たれてしまう。フランソワは必死にラナの行方を探すが、その頃エミールの身体にも異変が起こり始めていた。 鳥やタコ、カメレオンやオオカミなど様々な動物に変化する過程の人々の造形は恐ろし気ながら、その不穏さがどこか美しい。病が進行し徐々に仕草や考え方が動物的に変わっていく様子は痛みも含め生生しく、特に鳥人間の飛翔には解放感と共に神々しさすら感じて圧倒された。 獣と化した人々によるホラー映画かと思いきや、中心にあるのは父子の愛。ダークファンタジーをベースに、16歳の息子の心の揺らぎと人間関係をとらえた青春ドラマと、そんな彼を受け入れていく父を追った家族ドラマになっている。