ヴェネチア・ビエンナーレ2024日本館、毛利悠子「Compose」を現地から速報レポート!
ヴェネチアで手に入れたフルーツ
作家が現地で調達したのは日用品だけではない。《デコンポジション》には、ヴェネチアの八百屋や農家とコミュニケーションをし、仕入れてきたフルーツが使われている。フルーツに電極を刺して常に推移するその水分量の変化を電気変換し、持続音(ドローン)と明滅する光を生成する本作。腐敗していくフルーツはやがてピロティにあるコンポスト(堆肥容器)に溜められ、ジャルディーニの植生のための肥料へと変化する。水と同様、ここでも循環の有り様が見られる。 イ・スッキョンは、本展タイトルについてステートメントで以下のように語る。 本展タイトル「Compose」の原義は「com・pose=共に・置く(place together)」とされている。「Compose」展は、コロナ禍後の分断、争い、地球規模の課題や危機に直面する世界において、ばらばらになった人々があらためて共に置かれ(placed together)、住まうことの意味を問いかける。人々はどのようにして「危機」において創造性を与えられるのか──それこそが、予期せぬ水漏れに立ち向かう駅員の姿を見た毛利が作品を着想するに至った背景にある。水漏れは完全には修復されることなく、フルーツはやがて朽ちてコンポストとなってゆく。しかし、こうした小さな営みにこそ、私たちの慎ましい創造性がもたらす希望の鱗片があるのだ。 インスタレーションには毛利の手による作品が生み出す音や景色だけでなく、フルーツが熟れていく香り、ジャルディーニに吹く春の風、太陽の美しい光、行き交う人々の声などが混ざり合い、特別な時間と空間が立ち上がる。 プレビューには多くの人々が集まり大盛況だったが、4月から11月へと向かう季節の変化のなかで、展示また刻一刻とその姿を変え続けていくだろう。 なおTokyo Art Beatでは毛利悠子とイ・スッキョンの対談取材をヴェネチア館で実施。こちらの記事の公開もお楽しみに。
福島夏子(編集部)