2021年にISSから投棄された人工物の一部が大気圏再突入後に米国の民家へ落下
長征5号Bのコアステージほど大きな物体ではなくても、地上へ落下するリスクはあります。2021年3月にはスペースXの「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットの2段目で使用されているヘリウム用のタンクが米国ワシントン州に落下して回収されています。また、今回フロリダ州に落下した物体のように、大気圏再突入時に燃え尽きるという予想を覆して地上へ到達してしまうこともあります。これらのケースでは人的被害は報告されていませんが、2022年に発表された研究成果では、1992年~2022年にかけて制御されない状態で発生した1回の再突入につき、平均10メートル四方の範囲で1人以上の死傷者が生じ得た確率を約14パーセントと算出しています。 近年では地球低軌道の商業利用が加速しています。その一つの象徴と言えるスペースXの衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」では、サービスを支える小型の通信衛星がすでに6000機以上も打ち上げられていますし、「OneWeb(ワンウェブ)」や「Project Kuiper(プロジェクト・カイパー)」といった競合サービスでも多数の衛星打ち上げが実施・計画されています。
地球低軌道の商業利用は通信だけに留まらず、ISSの運用終了後を見据えた商用宇宙ステーションの建設計画も複数の民間企業が進めています。こうした民間の宇宙ステーションも運用期間が長くなれば、ISSのように設備の修繕や更新を行う必要が生じるはずですし、不要になった装置などを廃棄する必要に迫られることもあるでしょう。 不要になったのが自律的に飛行できるモジュールであれば宇宙ステーションから分離後に制御落下させられるかもしれませんし、小さな装置なら大気圏再突入能力がある補給船や往還機に積み込んで回収したり、もしくは再突入能力がない補給船と一緒に廃棄したりすることでリスクを排除・軽減できます。一例として、ISSではロシア区画で運用されていたドッキング室「Pirs(ピアース)」が2021年7月に廃棄されましたが、ピアースは単体では飛行できなかったため、ロシアの無人補給船「Progress(プログレス)」ごとISSから分離させて大気圏へ再突入させる方法で行われました。