2021年にISSから投棄された人工物の一部が大気圏再突入後に米国の民家へ落下
ただ、今回落下した曝露パレットのように「自律飛行能力も回収・廃棄手段もない物体」が落下するリスクを排除するためには、そもそもそのような物体が生じないように宇宙ステーションの各要素を設計・製造したり、さまざまなサイズ・質量・状態の人工物を回収・廃棄できるシステムを整備したりする必要があります。 軌道を周回しているスペースデブリを回収・除去する技術は国内外で実用化に向けた取り組みが進められています。たとえば2024年2月に打ち上げられた日本の民間企業アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」は、2009年1月から地球低軌道にある「H-IIA」ロケット15号機の上段(重量約3トン)に接近し、大型デブリ除去の実用化に向けた技術実証を行う予定です。 人工衛星やロケット上段であれば、早期に大気圏へ再突入するように軌道の高度を低下させたり、人のいない海域に制御落下させたりすることでスペースデブリになることを防ぐことができます。一方、宇宙機として制御できるように作られていない宇宙ステーションの一部などが何らかの理由で投棄された場合、いつどのタイミングでどこに落下するのかをあらかじめ正確に予測しておくことはほぼ不可能です。しかし、今後実用化されるであろうデブリ除去技術を応用すれば、今回再突入した曝露パレットのような人工物が制御されないまま軌道に残り続ける状況を避けられるかもしれません。 スターリンクに代表される大規模な衛星コンステレーションは地上からの天文観測を妨げる可能性があるとしてその影響が懸念されていますが、地球低軌道の商業利用が活性化しつつある中で起こった今回の人工物落下は、軌道からの宇宙物体の落下という人命に直接影響しかねないリスクについても改めて考える必要性を物語っているかのようです。大気圏再突入時に燃え尽きるよう配慮されているスターリンク衛星のように、今後の地球低軌道利用ではスペースデブリの残留だけでなく、地上へ落下する際のリスク軽減に向けても実効的な対策が求められます。 Source NASA - NASA Completes Analysis of Recovered Space Object ESA - Reentry of International Space Station (ISS) batteries into Earth’s atmosphere JAXA - 宇宙ステーション補給機(HTV)
sorae編集部