タメ口・敬語、「造語力」に驚き 6カ国語を操るイタリア人テシさん 「ジワる日本語」の魅力とは
「敬語」「タメ口」、造語力の面白さ
そんなテシさんは、ほかの言語と比べて、特に日本語の興味深い点を教えてくれました。 まず、敬語や丁寧語。「させていただく」「申し上げます」などを語尾につけるように、「長ければ長いほど丁寧になる」。 そして、その対極にあるのが「タメ口」。同じ言語の中に、さらに異なる言語があるようで「すごくおもしろい」といいます。 ただ、敬語に関しては不満もあるそう。ある店員が、日本人の友人には「お待ちください」と対応したのに、テシさんには「ちょっと待ってね」。 「日本語がわからないのではと思われたのでしょうか。外国人だからって、敬語を使ってくれないことがあるんです」 ほかにも、「イケメン」(いけてるメンズ)、「ダントツ」(断然トップ)、「ドタキャン」などなど、日本語の「造語力」にも驚かされているそうです。 日本語と外来語が融合することで「想像もつかない言葉を生み出している」と指摘します。 初めて「ドタキャン」を耳にしたときは、「キャン」が叫び声の「きゃー!」のたぐいかなと思ったそうです。 「キャンセル」とわかった後、「ドタ」を調べてみると、切羽詰まった状況を表す「土壇場」(どたんば)の略だと判明。さらに土壇場は、土で築いた壇がある江戸時代の刑場が由来、と知ったといいます。 「江戸時代の言葉に英語を合体させて、さらにそれを縮めるなんて!」と声を弾ませます。
過去形・訓読みの難しさには苦労
もちろん苦労もたくさんあります。たとえば「動詞の過去形」。 大学では当初、「書きました」「学びました」といったように「ました」をつける形を学び、「『ました』をつけるだけだから簡単」と思っていたそうです。 ところが、「書いた」「学んだ」になると、語尾がまるっきり変わってしまいます。 「う」や「つ」で終わる動詞は「会った」「立った」と「~った」、「む」や「ぶ」で終わる動詞は「飲んだ」「学んだ」と「~んだ」……。 「なんで?どういうこと?となってしまった。初めは覚えるのが難しくて」 「音読みと訓読み」にも苦労したそうです。 「携帯」(けいたい)は読めるけれど、「携」が「たずさわる/たずさえる」とも読めると知ったのは、5年ぐらい経ってからだったといいます。 テシさんの語学的探究心は、日本語だけにとどまりません。言葉の響きに魅力を感じて、2年ほど前からポルトガル語も学び始めたそうです。 記者は過去にフランス語に挑戦しましたが、男性名詞・女性名詞の違いに戸惑ってしまい、早々に挫折した経験があります。スマホアプリなどの翻訳ツールが発達したいま、「時間をかけて言語を学ぶ理由は?」「続けるコツは?」と聞いてみました。 テシさんは「文法や動詞の変化など、ふだん自分が使っている言語から別の言語へと、自分の頭の動きが全て切り替わっていくようでおもしろい」と答えます。 もちろん、多くの人とじかにコミュニケーションがとれたり、仕事の幅が増えたりするメリットもある。しかしそれ以上に、言語はその国や地域の文化を写す「ミラー(鏡)」――。 「言語を学ぶことで、新しい価値観や文化が吸収できる」と話します。 テシさんは、学び続けるためには、「音がきれいとか、その国に行ってみたいとかでもいいので、なぜその言語を学びたいのか、理由をしっかり見つけることが大切」とも指摘します。 その上で、オンラインでの会話やポッドキャストなど、場所を問わず安く学べる方法を活用していけばいいと提案します。 しかし、一番の近道はなんと言っても「教科書を使って必死に勉強すること」。結局は、地道な努力が実を結ぶとのことでした。
「言語プラスアルファ」が大切と考えて…
外国語のほかにも、テシさんはプログラミングを独学で学んでいるそうです。 「今後は人工知能(AI)がもっと発達して、翻訳や通訳など自分の特性が生かせる分野の仕事が減るのでは」と考えているからです。 「仕事のことを考えたら、他の言語ができるだけでは足りない。言語プラスアルファが大切」 校閲の仕事も、すでに一部でAIの技術が活用され始めています。今後はその範囲が広がっていくかもしれません。 6カ国もの言葉を使いこなし、さらに自分の強みを増やそうとする姿勢。日本語しかできない記者には、テシさんの行動力と学びに対する意欲に頭が下がりっぱなしで、言葉が強く響いたのでした。