エルサレム首都問題で孤立化する米国 国際政治の舵取りは他国にシフトか
変わりつつあるアメリカと国連の関係
トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことへの懸念は、アメリカ国内からも噴出している。ニューヨーク・タイムズ紙は7日、歴代の駐イスラエル大使11人に見解をたずね、9人の元駐イスラエル大使がトランプ大統領の決断に同意しかねると回答している。アイゼンハウアー政権時代に駐イスラエル大使を務めたオグデン・レイド氏と、クリントン政権時(2期目)の2年間を駐イスラエル大使としてテルアビブで過ごしたエドワード・ウォーカー氏の2名だけはトランプ大統領の決断に「中東和平における正しい行動」として賛同した。 クリントン政権時にエジプト大使を、その後のブッシュ政権時にイスラエル大使を務めたダニエル・クルツァー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、「(中東和平で)アメリカは再び世界的な孤立状態に陥った。エルサレムの首都認定を支持するのはイスラエルのみだ。トランプ大統領は中東和平における仲介役を担いたいと考えているが、首都認定によってその役割から放り出された格好となった」とコメントしている。現在の駐イスラエル米大使は、トランプ大統領の盟友で正統派ユダヤ教徒としても知られるデービッド・フリードマン氏だ。5月に新しい大使としてイスラエルに赴任したフリードマン氏は7日、FOXニュースのインタビューに対して、「エルサレムの首都認定は、中東和平実現にとって最善の道となる」と語っている。 前出のクルツァー氏の懸念は、早くも現実になった。21日の国連総会で行われた緊急特別会合では、トランプ政権によるエルサレム首都認定の撤回を求める決議案に128か国が賛成票を投じた。これらの国にはアメリカ以外の常任理事国全て(ロシア、中国、イギリス、フランス)や日本も含まれている。35か国が棄権という形で投票を見送り、反対票を投じたのはアメリカとイスラエルを含む9か国のみであった。反対票を投じた国にはマーシャル諸島やミクロネシア、パラオといった太平洋の島国も含まれているが、これらの国は90年代半ばまで「太平洋諸島信託統治領」としてアメリカの管理下にあり、現在も経済的にアメリカに大きく依存している。2003年のイラク戦争でもこれらの国はアメリカ支持に回った。 イラク戦争前にも多くの国がアメリカ主導のイラク侵攻に反対の立場を取ったが、NATO(北大西洋条約機構)加盟を控えていたバルト三国や東欧諸国は賛成に回った。翌年の2004年にバルト3国やブルガリア、ルーマニアといった国がNATOに加盟している。しかし、今回の決議案ではブルガリアやリトアニア、エストニアといった国々はトランプ政権のエルサレム首都承認に反対の姿勢を明確にしている。 決議案の採決前にはアメリカのヘイリー国連大使が演説を行い、「我々は今日受けた攻撃を決して忘れることはないだろう」と決議案に賛成する国々を脅すような一幕もあった。アメリカとイスラエルの国連大使は演説後に、採決を待たずに議場を後にしたが、結果は128対9で賛成派の圧倒的な「勝利」となった。アメリカは国連の通常予算で最大の拠出金を出している国であるが(分担率は22パーセント)、エルサレムの首都認定をめぐる問題では拠出金の削減や各国への経済支援の打ち切りも示唆している。アメリカの国連への拠出金に関しては、「フォーリン・ポリシー」誌が今年3月にトランプ政権が国連が行う様々なプログラムのための予算を50パーセント削減する方向であると報じていたが、エルサレム問題で拠出金の削減が現実味を帯びてきた。 「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ政権が誕生すると、アメリカは地球温暖化対策を定めたパリ協定からの離脱を表明し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からも脱退した。また、アメリカと国連との関係は長きに渡って良好と呼べるものではなかったが、国連大使が公の場で拠出金や経済支援の削減をちらつかせて他国を“恫喝”するのは前代未聞の話だ。アメリカは10月にユネスコからの脱退も表明しており、国連とアメリカとの関係、国連そのものの存在意義が問われ始めている。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト