【密着】フィンランド 料理人から転身し、陶芸家として独創的なアートを生み出す息子へ届ける父の想い
今回の配達先は、フィンランド。陶芸家の星利昌さん(38)へ、兵庫県で暮らす父・重男さん(72)が届けたおもいとは―。
マリメッコやイッタラを生んだデザイン都市・ヘルシンキで陶芸の道へ
首都ヘルシンキは19世紀より工芸品作りが盛んなデザイン都市で、マリメッコやイッタラ、アラビア窯といった北欧を代表する世界的な工芸ブランドを生み出している。 そんな街で利昌さんが陶芸を始めたのは8年前。しかもほぼ独学だという。作品は年々、皿や花器などの実用品では物足りなくなり、最近はアートなオブジェをメインに創作。粘土を伸ばして巻いて形にする「手びねり」から派生した手法を好んで使い、「粘土というのはエネルギーが吸い取られていく、もしくはエネルギーを込めて行く作業。そこに楽しみを見つけてやっています」と語る。 工房があるのは、家族4人で暮らす郊外の自宅。現地で出会った妻の佐和子さん(38)はプロのテキスタイルデザイナーで、マリメッコと協働した作品が商品化されるなど、第一線で活躍している。
日本人デザイナーとの出会いから繁盛していたレストランを閉め、陶芸家に
利昌さんがこの地にやってきたのは2008年。当時は料理人で、日本料理店で修業後、22歳のときに世界の料理を見聞するためフィンランドへ渡った。そこでヘルシンキに店を開こうと全財産を投じるも、改装業者が工事を途中放棄してしまうというトラブルに見舞われる。お金もなく、ろくに言葉も話せなかったが、それでも決めていたのは、美容師だった父が美容院を始めたのと同じ26歳で開業すること。心が折れそうになる中、父にも励まされ、なんとか開店にこぎつけた。 こうしてオープンすると、フィンランド風にアレンジした料理が好評で、レストランは大繁盛する。そんな店に当時、お客さんとして来ていたのが、マリメッコのテキスタイルデザイナーでアラビア窯の陶芸も手掛けていた石本藤雄さん。日本人の感性がベースにありながら、フィンランドを感じる石本さんの作品に感銘を受けた利昌さんは、多忙な仕事の合間を縫って工房に通い詰めるように。そして石本さんが引退して帰国するとき、陶芸の道具一式を譲り受けた。これを機に、レストランを閉じ、陶芸家一本でやっていこうと決断する。