理工入試に女性枠導入、京大「多様性確保」の本気 「研究力が落ちる」「逆差別」の声は的外れな批判
欧米型のフレキシブルな研究体制をつくりたい
今、社会では多様性を尊重する動きが広がっており、教育現場でもインクルーシブ教育やジェンダーギャップ解消に向けた取り組みが推進されている。こうした中、京都大学(以下、京大)が2026年度入学者の入試から理学部と工学部で「女性募集枠」を設けると発表し、注目を集めた。なぜ京大は今、「人材多様性の確保」を加速させているのか。京大の現状や日本の大学の課題について、総長の湊長博氏が語る。 【画像】女性教員の環境整備も進む京都大学。昨年12月には学童保育所も新設 ――今改めて「世界に伍する研究大学」を目指されていますが、これまでも数々のノーベル賞受賞者を輩出されるなど、日本を代表する研究大学として知られています。京大の歴史的な研究の特色や強みについてお聞かせください。 京大が創立されたのは明治30年、日本で2番目の帝国大学としてスタートしています。東大は官僚をはじめとした政治社会のリーダーを育成する一方、京大は研究者を育てる研究型大学として誕生しました。当初は西洋の最先端の知識や成果を輸入し、日本に内在化することを進めていましたが、国力が増す中で、日本独自の研究をする風潮が生まれました。 当時の学内はまさに「パイオニア精神」に満ち溢れていたと言います。そうした風土の中で、日本初のノーベル賞受賞者も生まれたのです。私も常々先輩から「自分の学問を開拓しろ」と言われてきましたが、そうした独創性を重んじてきた伝統が今も息づいています。 ――その一方で、世界大学ランキングを見ると、アジア圏の大学と比較してもランクが落ちますが、この状況をどう捉えていますか。 確かに問題点があります。まず日本の研究型大学とは言っても、西洋から輸入したシステムであり、明治後半からその体制はほとんど変わっていません。1990年代に国立大学で大学院重点化が行われ、それは私も当時は現役の教授として大きな変化だと感じていましたが、改めて振り返ると体制はほぼ変わっていないんですよね。 20世紀までは「屋根裏部屋で大発見」といった成果も実際あり、研究はローカルな体制でも効率よく行うことができました。しかし、21世紀に入ると、それが通じなくなった。科学技術が高度に専門化・システム化する中、欧米の大学は柔軟に変革を遂げてきましたが、その動きに対応できる体制を日本はつくれなかったのです。それが京大をはじめ日本の大学全体の大きな課題だと感じています。 ――2020年に総長に就任されて以降、任期中の基本方針として「教育・研究支援体制の再構築」「人材多様性の確保」「財政基盤の強化」を掲げられています。これまでの取り組みをどう評価されていますか。 まだ50点です。マインドが醸成され、具体的な動きも出てきていますが、3年ほどですべてをガラッと変えることは難しく、形になるにはもう少し時間がかかるでしょう。 とくに先ほど申し上げたように、理系の研究体制は変える必要があると考えていますが、理解を得るのがなかなか難しい。しかし、教授・准教授・助教の3~5人で構成する昔ながらの小講座制では、もはや最先端のサイエンスには対応できません。 欧米の大学の研究体制は領域や部門ごとのデパートメント制であり、チェアマンの下、若手から中堅の教授・准教授やポスドク・院生などを含め20~60人の組織となっています。日本でも成果を上げるために、欧米型のフレキシブルな研究体制をつくらなければいけません。 そのために特区をつくって「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」にも取り組んでいますが、これはあくまで特区でありコアではありません。多様性のメリットを生かしていくためにも、コアである大学の組織体制を変えていきたいと考えています。