根深い個人消費の弱さを改めて浮き彫りにする7-9月期国内GDP統計が発表へ:定額減税と給付金は空振りか:経済対策の議論にも影響
定額減税と給付金の効果が期待外れだったことを真摯に受け止めよ
7-9月期GDP統計(一次速報)は、政府が11月22日にも閣議決定を予定している、経済対策の議論に影響を与えるのではないか。個人消費の弱さが確認されたことから、消費喚起を狙って経済対策の規模をさらに膨らませる方向で議論が進む可能性が考えられる。 他方、定額減税と給付金の個人消費への影響が期待したほどではなかったことを踏まえて、経済対策の中身の是非がより真剣に議論されることを期待したい。根深い個人消費の弱さの底流には、長い目で見て、物価高が続く中、実質所得が余り増加しないことへの消費者の懸念があるだろう。 足もとで実質賃金の上昇率は前年比でプラスに転じつつあるが、2023年に実質賃金は前年比‐3.5%と大幅に低下しており、実質賃金の水準はなおかなり低い。さらに、実質賃金上昇の持続性にも不安が残るため、実質賃金の上昇率が前年比でプラスに転じるだけでは、個人消費の本格的な回復には繋がらない。 個人が望んでいるのは、減税や給付金によって一時的に所得環境が改善することではなく、実質賃金が持続的に増加し、また、その増加率が先行き高まっていき、生活水準が切り上がっていくことではないか。それが実現されるには労働生産性上昇率が高まることが必要であり、減税や給付金によって一時的に所得が増えてもそれは実現しない。
成長戦略を経済政策の中心に
こうした点から、政府に期待されるのは労働生産性上昇率を高める成長戦略だ。自民党の選挙公約では、リスクリング、ジョブ型雇用の促進、労働移動の円滑化からなる労働市場改革が掲げられている。これは、岸田前政権の「三位一体の労働市場改革」を継承したものであり、これは労働生産性上昇に資する重要な成長戦略だ。また、石破首相は「地方創生」、「東京一極集中の是正」、「少子化対策」を一体で進める考えを示しており、大いに期待したいところだ。ただし、こうした成長戦略は、2024年度補正予算で賄われる経済対策に盛り込まれるのではなく、2025年度本予算に盛り込まれるべきだ。 他方、個人消費の回復を後押しする短期的な政策としては、物価上昇懸念を煽っている円安に歯止めをかける、為替の安定化策も重要だ。政府と日本銀行が連携して、過度な円安阻止に取り組みことは重要なことである。この点から、日本銀行の利上げを妨げることは、過度な円安修正の妨げとなり、物価高問題をより深刻にしてしまう可能性があることには留意すべきだ。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英