176億円債券かけた住民投票も… 大統領選挙の日に“もう一つの選挙” 決まる公立校スポーツ施設の運命
「Sports From USA」―今回は「大統領選挙の日に決まる公立校スポーツ施設の運命」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「大統領選挙の日に決まる公立校スポーツ施設の運命」。 ◇ ◇ ◇ まもなく米国の大統領選挙が行われる。同じ日に連邦下院と33議席の連邦上院議員、いくつかの州知事、市長の選挙も行われる。この日に、公立学校の改善事業のための債券発行を問う選挙を行うところもある。この改善事業には、施設の新設、改修、環境の整備などがある。これらの事業には公立学校のスポーツ施設に関するものもある。この連載でも、アメリカの公立学校は、多くの高校がアメリカンフットボール場や野球場などの立派なスポーツ施設を持っていることをレポートしてきた。これらの施設を建設するための債券を発行するかどうかは、住民投票で決まることが多いのだ。 まず、アメリカの小学校から高校までの公教育のためのお金はどこからきているのかをみてみよう。アメリカの公教育は各州によってなされており、州は学区にわけて、それぞれの学区教育委員会に運営を大幅に任せている。お金の使い方についても学区教育委員会が審議し、決めていく。学区の財源は学区に住む住民からの税金と、連邦政府と州からの補助金である。 学区が学校の施設を建設したり、改修したりするときには、毎年の予算ではカバーできない大きなお金がかかる。そこで債券を発行してこれを財源とするのだ。債券を発行するということは、学区が出資者にお金を返していかなくてはいけないので、住民の税の負担が増えることになる。だから、住民の投票で、公立校の資本改善事業のために債券を発行するかどうかを決める。 選挙が近くなると、大統領候補や議員候補の名前のプラカードだけではなく、「Vote Yes for School Bonds」「Vote No!」といったカードが並んでいる。投票権のある住民はどのように判断するのか。これから学校に通う年齢の子どもがいて、公立校での教育を希望する世帯では、少々納税額が増えても学校の施設が充実するほうがよいと考えるだろうことは理解できる。学校に通う年齢の子どもがいない世帯は増税につながるだけだから、NOに投票するのか、といえば、そうとは言い切れない。 子どものいない世帯でも、もし、学区の学校の施設が充実し、子どもを持つ世帯がこの学区に住みたいと希望するようになれば、不動産の価値は上がる。学校の施設がボロボロであれば、よりよい教育を受けるためにこの学区に住みたいと思う人は少なくなるから、不動産の価値は下がる。教育のための税負担が、地域に住む子どもだけでなく、個人のメリットになるかも計算する。