大規模災害、デジタルで備え 供給網を一元管理 リスク可視化“保険付き”サービスも登場
サプライチェーン(供給網)の強靭(きょうじん)化に、デジタル技術を活用する動きが活発化している。1月の能登半島地震は日本が地震大国であることを改めて突き付け、サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした。この教訓を踏まえ、部品調達から製造、輸送まで関係する企業全体を一元管理するシステムを、クラウドサービスなどを活用して構築。安全確認をはじめ、複数の調達先の確保や在庫などを可視化し、供給体制を強化している。 【関連写真】大日本印刷が導入したサプライチェーンリスク管理クラウドサービスのサプライヤー被害状況の表示イメージ パナソニック エレクトリックワークス(EW)社は、国内外3000社超のサプライチェーン情報を一元化し、災害発生時の対応を最短1日以内で完了させる新たな統合SCM(サプライチェーンマネジメント)システムを、人工知能(AI)を活用した富士通のプラットフォームを基盤に開発した。 これまでは数万点に及ぶ製品・部品などの情報を、それぞれの部門が形式の違うデータで個別管理していた。新たに導入したSCMシステムは、生産や販売、在庫、部品調達などの業務統合や、20万点を超える在庫部品の品番のひも付けと可視化を行い、生産・販売・在庫計画や部品調達を最適化する。BCP(事業継続計画)の状況把握にかかる日数を従来の平均3日から1日に短縮できたという。 パナソニックEW社の大瀧清社長(パナソニック副社長)は「いつ、どのように商品が届くかを事前に把握できれば工事の手配など流通管理が改善し、2024年問題の対策にもつながる」と効果を強調する。 印刷をはじめ情報産業、生活産業、エレクトロニクス分野など幅広い事業領域を持つ大日本印刷は8月から、サプライチェーンのリスクを管理するクラウドサービス「Resilire(レジリア)」を導入した。 多岐にわたるサプライヤーから資材調達しているため、各社の情報の連動や、緊急時の状況確認などの業務負荷がこれまでは増していた。しかし、原材料などの調達先であるサプライヤー情報を一元管理することで、状況確認の作業時間が約50%に低減。リスク発生時の初動対応の迅速化につなげたい考えだ。 大規模災害で業務が停止した場合までを見据えた仕組みづくりも進んでいる。東京海上グループは富士通と協業し、自然災害などによって生じるサプライチェーンリスクを可視化するクラウドサービスを立ち上げた。 顧客企業の拠点や取引先の生産拠点、生産品、調達品の流れを可視化できる上、拠点情報とハザードマップを地図上で重ね合わせて自然災害のリスク情報も把握でき、有事に備えたサプライチェーンの構築とリスク対策の立案を支援する。このサービスには、物流の途絶を回避するための追加費用を補償する東京海上日動の保険が組み込まれているのが特徴だ。開発に当たった富士通の新美弘シニアマネージャーは「保険と組わせて提供する初のサービス」と話す。 サプライチェーンリスクの管理は、サイバーセキュリティーと同様、企業の業績とは直結しないものの、地震大国の日本で事業を継続する上で、必要な投資になりつつある。
電波新聞社 報道本部