沖縄でたびたび浮上する「独立」論 背景と歴史は /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
「鳩山発言」以後
こうした動きを一挙に覆し「期待」から「落胆」へと突き落としたのが09年8月の総選挙で野党・民主党の鳩山由紀夫代表が約束した移設先が「最低でも県外」発言でした。この選挙で民主党は政権を握り、鳩山代表が首相になっただけに県民は期待しました。ところが約9か月後「腹案がある」などと言いながら結局元の辺野古案(県内)でアメリカと合意するに至り県民は政権への不信感を強めます。 この時期に台頭した若手の「独立」論は従来より過激で、もう本土には期待できないというあきらめと怒り、「基地なき島」へのあこがれに加えて琉球民族自決論などが合流しているもようです。「独立」論には、それを純粋に求めている少数を除いて「ここまで言わないとわかってもらえない」という悲しみの発露という面もありそうです。
ところで日本の一部が「独立」できるのか
冒頭に示したように沖縄「独立」は現実にはありえません。したがって以下の文章は一種の空想と思っていただければ幸いです。 国家は国土、国民、主権者が必要で、日本国憲法によると国民は10条とそれに基づく国籍法で、主権者は1条の「主権の存する日本国民」で明確。ところが国土の規定がありません。だから極端にいってしまうと仲良し向こう三軒両隣が「日本から独立する」と宣言しても法的に一発アウトはできないのです。 刑法は「国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使」するなどした者を内乱罪に問えるとします。ただし「暴動をした者」限定。「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者」も外患誘致罪に問えます。これも「武力を行使」が要件。つまり平和的に独立を宣言し、納得した「国民」にあたる人々が暴力や武力を用いず主権者を定めたら刑法では裁けません。 沖縄に関しては鈴木宗男衆議院議員の質問趣意書に対する菅直人内閣の答弁書(2010年6月18日)に「遅くとも明治初期の琉球藩の設置及びこれに続く沖縄県の設置の時には日本国の一部であったことは確かであると考えている」とあります。確かに現在はそうでも今後はわかりません。しかし、現実にはどの単位(都道府県でも市町村でも仲良し)でも独立は不可能でしょう。まず独立の是非を問う主体がわかりません。知事や市長あるいは地方議会議員は日本国憲法下の定めで選ばれているから。 国際承認も欠かせません。最もスムーズなのは日本の国家権力(三権)から「独立を問う住民投票をしていい。過半数(あるいは3分の2などケースバイケース)が承認したら認める」とのお墨付きを得る方法でしょう。でも絶対に無理。沖縄に限っては独立宣言してもアメリカと日本の少なくとも片方が承認しなければ、日米完全保障条約に基づく在日米軍基地設置なので出ていくアテもありません。通貨の問題もあります。むろん国防も。日本とケンカ別れの独立では円は使えず、自前の軍隊を用意しないと外国と対抗できません。 日本の承認がなくても諸外国がこぞって独立に賛成すれば成功するかもしれませんが、多くは国内に分離独立運動を抱えており、よほどの大義がないと二の足を踏むはずです。
--------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】