【ドラマ座談会】『海に眠るダイヤモンド』『ベビわる』の凄さ 世代交代の波も各所に
テレビドラマの最大の武器とは?
――『海に眠るダイヤモンド』の話は語るべきことが多いですよね。ほかに注目作はありますか? 田幸:『ライオンの隠れ家』(TBS系)は徳尾浩司さんと一戸慶乃さんのW脚本ですよね。徳尾さんは『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)のイメージが強かったですが、サスペンスやまとめる力を徳尾さんが、ヒューマンの繊細な描写を一戸さんが担い、チームとして良い相性を発揮している気がします。 成馬:僕が良かったのは『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(テレビ東京系)。今のところ、今年のベスト1です。殺し屋の女の子2人が主人公のドラマですが、映画がすでに2作公開されており、ドラマ放送と同時期に映画の第3作も公開されて盛り上がっています。監督の阪元裕吾さんは28歳の若手ですが脚本も担当していて、先鋭的なアクションと殺し屋の女の子たち2人の日常描写が高く評価されているのですが、ドラマ版は阪元さんの脚本の良さが際立っていて、殺し屋という職業が日常化している世界の中で、現代の若者が直面している労働の問題を描いていて、凄く斬新なドラマとなっていました。日常と派手なアクションが『3000万』や『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系)といった闇バイトを扱ったドラマが今クールはいくつかありますが、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズを観ていると、闇バイト的な世界が、今の若者にとって地続きの日常であることが凄くよくわかる。犯罪や暴力とゆるふわな日常がシームレスに繋がっていて漫画でいうと藤本タツキの『チェンソーマン』の世界と近いですね。 田幸:阪元裕吾監督のスタートは京都造形芸術大学在学中の『ベー。』という自主制作映画ですよね。テレビドラマから映画化される流れではなく、自主制作映画からスタートして、それが学生残酷映画祭でプランプリを受賞し、商業映画デビューを果たしています。映画から連ドラ化されるというのはビジネスモデルとして珍しいですし、自主制作映画出身というのも注目したい点です、自主制作といえば『侍タイムスリッパー』の興行収入がすごく伸びてきているから、この調子で時代劇も映画からテレビドラマに復活してくれるといいなと思ったりします。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)でも時代劇がフィーチャーされていたことだし、うまくいろいろな作品にリンクして復興してほしい。 木俣:『侍タイムスリッパー』を観て時代劇ドラマをやりたくなる人たちがいるかもしれないし、『SHOGUN 将軍』(ディズニープラス)がこんなに世界的に評価されているのに、なぜ日本でやれないのかみたいな話にはなりますよね。従来のドラマを超えたものを意識して作っているといえば『3000万』が面白いと思います。海外ドラマのような共同脚本プロジェクトって最初はどうなることやらと思ったけれど、2年越しくらいで練って、しかも、2年前は10人もいた脚本家を選抜で4人に絞るという過程を経ただけあって、脚本に隙がない。圧倒的な密度を感じます。 田幸:私も『3000万』の作り方はすごく面白いと思っています。なかには一人だと書ききれないから分業しましたというようなドラマもあって、それだと薄い印象を受けますが、『3000万』は演出も含め、時間をかけて複数の人で練りに練って作る手間と時間をかけた作品の強さがわかります。これからどんどん面白くなりそうだなと思います。ほかに、『宙わたる教室』(NHK総合)のクオリティが高い。本当に無駄なところなく、綺麗に作られていると感じます。もう終わっちゃいましたが『団地のふたり』(NHK BSプレミアム)も良かった。 木俣:結局クオリティが高いのはNHKになっちゃう(笑)。 田幸:月9『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)はどうご覧になっていますか? 私は割と楽しんでいます。『シャーロック』(フジテレビ系)のチームが作っているだけあって見応えがありますが、あまり話題になっていないですよね。 木俣:昭和初期が舞台でビジュアル的にもきれいだし、内容も見やすいミステリーですが、なんとなく小粒な印象がありますよね。それがかわいらしい感じでいいのかもしれませんが。 成馬:今期のフジテレビは『嘘解きレトリック』と『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系)と『オクラ』(フジテレビ系)、『全領域異常解決室』と1話完結の事件モノのドラマが4本もあるんですよね。設定や世界観の違いで差別化されているのは頭ではわかるけど、似たり寄ったりという印象になっているのがもったいない。 木俣:私は『全領域異常解決室』を楽しく観ています。朝ドラ座談会(※2)で2000年代のドラマの話題が出ましたが、2000年代の『トリック』(テレビ朝日系)、『SPEC』(TBS系)が好きだった視聴者が食いつきそうな餌を撒いている。それこそ、最近の刑事ものは何を観ても同じに見えるようなある種、漂白されて、エッヂを削ってなめらかにしてしまったようななかで、ヘンテコなものをやろうとしているのかなという気もしますが、手堅い黒岩勉さんの脚本がどこまで弾けられるかは未知数ですね。後半、主要登場人物が神様だったという流れで盛り上がっていますが。 成馬:『3000万』もクライムサスペンスとして面白いのですが、あのジャンルをやろうとすると『地面師たち』などのNetflixドラマと戦うことになるのが苦しいですよね。地上波ゆえの限界がどうしても目についてしまう。 木俣:大根仁さんはドラマにおけるエグみの加え方に長けていますよね。エンタメにはエグみって大事なんだと思います。 田幸:世の中的には『地面師たち』や『極悪女王』(Netflix)の記事の需要が高いと感じています。 成馬:地上波でも徐々に複数作家制が増えてきていますが、今年の前期は圧倒的に個人作家の作品が多かったですよね。生方美久さんを筆頭に、若手の新人作家にオリジナルの連ドラを任せることができるフットワークの軽さが、今のテレビドラマの最大の武器かもしれません。 木俣:田幸さんが推していた兵頭るりさんの『マイダイアリー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)はどうですか? 田幸:小さな世界を描いていて、そこに兵藤さんの独特の言語感覚とか感性みたいなものは見えます。ただやっぱり『わたしの一番最悪なともだち』(NHK総合)の15分×週4回のサイズのほうが合っているのかもという感じはします。1時間ものだとちょっと持て余しているような気がして……。 成馬:兵藤さんは何歳くらいの方ですか? 田幸:まだ20代ですね。 成馬:阪元裕吾さんも28歳ですし、世代交代の波が来ている感じはしますね。 田幸:地上波のドラマの勢いがなくなっているなかで、『ベイビーわるきゅーれ』のように20代の映画人を連ドラに引っぱってきたら状況も変わるのではないでしょうか。『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督や『HAPPY END』の空音央監督、『ぼくのお日さま』の奥山大史監督など、いま20代~30代前半の映画監督が注目されていますよね。 成馬:若いクリエイターに活躍の場を与えようという機運が高まっているのは良いことだと思うのですが、1970年代生まれの氷河期世代としては若干、複雑な気持ちになるんですよね。一方で60年代生まれで実力のあるディレクターやプロデューサーが今は次々とテレビ局を退社していて、Netflixなどの配信ドラマで新しいことにチャレンジしようとしている。だからその間にいる1970~1980年代生まれのクリエイターが今は何を作るべきかと、一番悩んでるのかもしれませんね。 参照 ※1. https://realsound.jp/movie/2024/09/post-1768337.html ※2. https://realsound.jp/movie/2024/11/post-1841828.html
リアルサウンド編集部