世界遺産「軍艦島」の過去と現代を結ぶ壮大ドラマ「海に眠るダイヤモンド」、脚本家・野木亜紀子が手掛ける新たな手法
TBS日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(夜9時)は、世界遺産に指定されている長崎県沖の端島(通称・軍艦島)を主要な舞台として、過去と現在をつないで物語が展開する大型ドラマである。脚本家の野木亜紀子さんの傑作である。 【写真】脚本家・野木亜紀子による新たなドラマ手法 物語は、高度成長経済をエネルギーで支えた「黒いダイヤモンド」、つまり石炭の生産を担った端島の1955年から石油へのエネルギー革命によって、端島が閉山する70年代までを紡いでいくのだろう。 日本を代表する野木亜紀子さんはいま、大ヒット映画「ラストマイル」の脚本を手がけている。このなかで、ドラマのヒット作である「アンナチュラル」(石原さとみ主演、2018年)と、「MIU404」(綾野剛・星野源W主演、20年)の登場人物たちも謎解きに加わっている。物語の世界観を共有するシェアード・ユニバースという形式の作品である。 「ラストマイル」は、物流企業で起きた事件を発端にしてヒロインの満島ひかりの過去が明らかになっていくサスペンスでもある。野木さんのシェアード・ユニバースの手法は、日本映画としては挑戦である。
冒頭から視聴者を引き付ける展開
本作の「海に眠るダイヤモンド」もまた、ドラマ史に残る新たな手法がちりばめられている。端島の1955年と、2018年の東京が交互に描かれながら登場人物たちの人生が浮かびあがってくる。 日曜劇場に関する筆者の感覚は、静謐(せいひつ)なドラマの進行のなかにときとして出現する事件によって、人生模様が描かれるのがいいと考える。このところの日曜劇場が壮大なテーマなどを扱いながらも、静謐さに欠けている印象がある。声高なセリフによって感動を呼ぼうとしても空振りに終わる。 野木作品は、冒頭からドラマの世界に観る者を引きずり込むような展開が巧みである。2018年の東京――明け方の閑散とした路傍、ホストの玲央(れお、神木隆之介)が、店の大きな看板の自分の写真に飲みかけのプラスチックの容器を思いっきりなげつける。写真に飲み物の残りがたれるように流れ落ちる。 薄汚れたなりをしたシニアのいづみ(宮本信子)が、その容器を拾って玲央に差し出す。そして、「わたしと結婚しないかい」と話しかけるのだった。