菅田将暉の「みぞうゆう」が懐かしすぎる…原作"インスパイア"の不安を見事に払拭したワケ。 ドラマ『民王R』考察レビュー
「inspired by池井戸潤」の不安を一蹴!
9年の時を超え、武藤泰山が帰って来た――。『民王』の続編、と言っていいのかどうかわからないが、とにかく、あの武藤泰山が帰って来たのだ! 【写真】あのちゃん&遠藤憲一の入れ替わりが凄すぎる…貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『民王R』劇中カット一覧 2015年に放送された『民王』(テレビ朝日系)は何度観ても飽きない名作。ゴリゴリの昔気質の政治家武藤泰山(遠藤憲一)が、某国のテロにて、学校の勉強は苦手だがおとなしくやさしい息子、翔(菅田将暉)と入れ替わってしまう、というストーリーだった。 入れ替わりを演じる遠藤憲一と菅田将暉の演技はもちろん、ドS秘書・貝原役を演じた高橋一生も素晴らしかった。 だからこそ、今回の『民王R』は前情報を観たとき、不安にもなった。キャストを見ると、菅田将暉不在。高橋一生不在。「inspired by池井戸潤」。えっ、インスパイアとは? 戸惑って詳細記事を読むと、なんと原作の池井戸潤は、今回は関わっておらず、オリジナル脚本という。ぬうう、これはギャンブルではないか! さらに秘書役に、まさかのあの。秘書のイメージが全然ない。書生役の、なにわ男子の大橋和也も未知数。今回の入れ替わりは「日本全国民」というザックリな設定も不安。 いや、確実な楽しみポイントもある。前作に引き続き、みんな大好きコミュ力お化けの官房長官「かりやん」こと狩屋さん(金田明夫)、神出鬼没な公安の新田さん(山内圭哉)は登場。おまけに敵ボスキャラの政治家二木に、日本一、ししおどしがある料亭での密談シーンが似合う、岸部一徳が決定! ……期待と不安が一つになって、名作になるのか、駄作になるのか、予想が1ミリもできない。「入れ替わり」というオイシイ設定だけを取り込んだ、悲しきインスパイアにならないことを祈りつつ、10月22日21時、チャンネルを合わせた。 すると、なんということでしょう――。新たな冒険が見えてきた!
あのちゃんの「まいりましょう!」に落ちる
いきなりナレーションが、菅田将暉、いや、翔君ではないか! 「みぞうゆう(未曾有)」読みに懐かしさが湧き出る。きっとそのうち伝説の「かぜはやしひやま(風林火山)」も披露してくれるだろう。高橋一生もまた「登山中の貝原」という奇抜な設定で姿を見せてくれた。嬉しい! しかし感動ポイントは、そういった前作のツボだけではなかった。 貝塚から秘書のバトンを渡されたのが、あの演じる冴島優佳。そしてなんと、第1回、新たなテロ勃発にて、泰山と入れ替わるのが彼女なのだ。あのは、専門用語バリバリの秘書用語を「できる風」にまくしたてなければならないうえ、オッサン演技もしなければならない。 あの舌ったらずな口調が大きな壁になるはず、と身構えていた私だが、まさかの、彼女が登場して最初のシーンですぐ「冴島優佳」として受け入れた。秘書だった。まごうことなき秘書だった…。 「二木先生らと会食。まいりましょう」の「まいりましょう」で完全に陥落した。 「やるじゃねえかよ」泰山のセリフの真似をし、テレビの前でニヒルに笑い、あのちゃんに呟いてしまった。 入れ替わりのオッサン演技もよかったが、なにより終盤、冴島優佳の姿で発する、政治家への憤りの長ゼリフが素晴らしい。彼女がバラエティなどで見せる、やるせなさや不満と、秘書・冴島の知性と憤怒がリンクし、とても心に響いた。