山口勝平の“キザ”キャラの魅力とは? 『らんま1/2』と『ジャンプ』作品との比較から考察
『DEATH NOTE』Lなど、山口勝平の多様な演技の魅力
その一方で山口は、工藤新一と同じく「探偵」でありながらも、そのキャラクター性はあまりにも異なる『DEATH NOTE』のLを演じてきた経験もある。Lは工藤新一とも早乙女乱馬とも、はたまたウソップとも違うあまりにも異色な造形のキャラクターであり、こうした異端なキャラクターをも演じ分ける山口の懐の深さを感じさせる。 早乙女乱馬、名探偵コナン、ウソップ、Lと山口の代表作を並べてみると、『らんま1/2』『名探偵コナン』は『週刊少年サンデー』発の、『ONE PIECE』『DEATH NOTE』 は『週刊少年ジャンプ』発の作品であることがわかる。『サンデー』系作品では乱馬、そして新一と主人公に類されるキャラクターを演じている一方で、『ジャンプ』系作品はそれぞれバイプレーヤー的なキャラクターを演じている。 『DEATH NOTE』は『ジャンプ』系作品のなかでもかなり異端な作品なので別にしても、思えば『ONE PIECE』『NARUTO』『ドラゴンボール』といった『ジャンプ』を代表する作品の主人公の多くは、そのキャラクターの性別こそ男性であるが演じているのは女性声優だ。『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィを演じるのは田中真弓、『NARUTO -ナルト-』でうずまきナルトを演じるのは竹内順子、そして『ドラゴンボール』で孫悟空を演じるのは野沢雅子。同じ少年誌でありながらこれほど主人公を演じる声優の起用の考え方が異なるのは、『週刊少年ジャンプ』と『週刊少年サンデー』、それぞれの精神性が反映されてのことだろう。特に『ジャンプ』系作品における主人公たちは物語序盤ではまだまだ未熟な存在として登場し、作品を追うごとに成長していくことが特徴だ。“あどけない少年性”を強調するために女性声優が起用されていると言えるだろう。 一方で、『コナン』や『らんま』『犬夜叉』のような『サンデー』系作品の主人公は、初登場時点である程度の成長を果たしていることが多い。例えば『コナン』における工藤新一は第1話の段階で“高校生探偵”として一定の成功を収めていたり、『らんま』においても乱馬は第1話より許嫁がいるキャラクターだ。“少年”というよりは“青年”に近い。 こうして考えてみると、一般に思い浮かべがちな“『サンデー』らしさ”、“『ジャンプ』らしさ”のイメージは、山口勝平と『ジャンプ』における女性声優陣を比較することでこそ生まれてはこないだろうか。そして山口が持つ“キザな男性キャラ”のイメージやコメディリリーフにも徹することのできるあの器用さは、同時代の『ジャンプ』作品と比較してこそより際立つだろう。 来年には還暦を迎える山口だが、そのキザな声と様々な役と場面を演じ分けることのできる演技力の高さは、今後もアニメシーンにおいて存在感を増していくことだろう。そんな中で山口の初主演作である『らんま1/2』で早乙女乱馬役を再び演じられるのは本人にとっても感慨深いものがあったのではないだろうか。『らんま1/2』で改めて山口勝平という声優の魅力を再発見してほしい。
ふじもと