ショッピングモール、駅地下にもドンキ出現…“驚安の殿堂”が意外な場所に登場し始めた納得の理由
酒井 その背景にあるのは「物を売るのではなく、空間を創造せよ」という同社の考え方です。面白い空間さえできれば物が売れる、という考え方が根底にあるからこそ、地域や言語が変わってもドンキの世界観を再現できるのだと思います。この点もアジアで躍進している理由の一つでしょう。 ■ ヒット商品を見つけ出すドンキの「優れた嗅覚」 ――著書では、急成長を遂げるアジア事業に対して、北米事業ではM&A戦略を軸としている点にも触れています。米国では「握りずし」に加えて「薄切り肉」がキラーコンテンツになっているそうですが、どのような背景から人気を博しているのでしょうか。 酒井 近年、日本を訪れて「すき焼き」や「しゃぶしゃぶ」のような薄切り肉を使った料理を知る人が増えています。しかし、欧米のスーパーでは薄切り肉があまり売っておらず、入手することが難しいです。 そうした背景があり、塊肉ばかりの米国であえて「肉を薄く切る」というひと手間の付加価値を加えて販売したところ、それが現地住民に受け入れられ、各店舗の売り上げを一気に押し上げたそうです。 ――同社の強みは、現地のニーズを見つけ出すマーケティング力にあるのでしょうか。 酒井 ドンキは自社の位置づけを「小売業」ではなく「変化対応業」としています。試行錯誤の中から金脈を見つけ、商品が売れると判断すると一気に横展開するのです。 例えば、北米市場では2024年4月、グアムに「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」と呼ばれるショッピングモールを作り、新たなヒット商品を見つけました。それが、ポキ(魚介の刺身をしょうゆなどの調味料に漬け込んだハワイのローカルフード)です。ポキを従来のように冷たい状態で売るのではなく、冷たいポキと温かいライスを分けて提供したところ、売り上げが伸びることを見つけたのです。現在は同メニューをハワイの店舗にも横展開しています。 ドンキは創業者の安田隆夫氏が何もないところからスタートした業態ですから、かなりの試行錯誤を繰り返してきました。「ピカソ」のような小型店から「MEGAドンキ」のような大型店まで、さまざまな業態でテストマーケティングを行い、売り上げが伸びれば拡大する、という方針を徹底しているのです。