クリントン氏とトランプ氏が激突 今秋の大統領選で勝つのは?
予測をことごとく覆してきたトランプ氏
かたや、トランプ氏もオンライン講座「トランプ大学」への集団訴訟などのスキャンダルを抱える。おまけに訴訟を担当する連邦地裁の判事がメキシコ系であることを理由に「自分の訴訟から外れるべきだ」と主張し、批判を浴びる有様だ。 民主党の予備選があくまで「ボクシング」だったのに対し、共和党のそれは「ストリート・ファイト」を思われるほどの禍根を残している。7月18~21日にオハイオ州クリーブランドで開催される共和党大会ではトランプ氏の指名が確実であり、もはや反トランプ派が切れるカードはない。しかし、怨念は残っており、トランプ支持者と反トランプ・デモの衝突が真剣に危惧されている。 民主党としてはトランプ氏の「資質欠如」を前面に押し出し、有権者が抱く「トランプ大統領」への恐怖感に訴えてゆくことが基本戦略となろう。とりわけ元国務長官であるクリントン氏にとって、外交・安全保障はトランプ氏の「最高司令官」としての資質欠如を露呈する格好の分野だ。今月2日にクリントン氏がカリフォルニア州サンディエゴで外交演説を行い、トランプ氏批判に注力したのはその好例と言えよう。 トランプ氏が共和党の候補者指名を確実にして以来、同氏とクリントン氏の支持率が拮抗する、あるいは上回っている世論調査も散見された。今回、クリントン氏が民主党の候補者指名を確実にしたことを受け、党内一致が進み、クリントン氏が再び優位に立つ公算が高いと思われる。選挙分析で定評のあるバージニア大学のラリー・サバト教授率いる研究チームは、現時点で、獲得選挙人数を民主党347人、共和党191人と予測している。歴史を振り返れば、同じく「異端」候補だった共和党のバリー・ゴールドウォーター氏(1964年)、民主党のジョージ・マクガヴァン候補(1972年)、ともに本選では得票率で20%以上の差をつけられて大敗している。 しかし、こうしたプロの予測を次々と覆してきたのがトランプ氏でもある。クリントン氏に比べて、トランプ氏には伸び代も大きい。これからは有権者名簿や献金者名簿を含め、共和党のデータや組織力が活用できる。ポール・マナフォート氏のような共和党の主流派と通じた著名コンサルタントも陣営に加わっている。予備選を通して共和党員の投票参加や士気を高めた点も侮れない。早速、クリントン氏のことを「いかさまヒラリー(Crooked Hillary)」と命名しているが、相手をストリート・ファイトに引きずり下ろす術は実に巧みだ。 不動産王のみならず、テレビの人気リアリティ番組の司会者としても知名度抜群のトランプ氏だが、公職経験皆無の同氏がワシントン・インサイダーの象徴でもあるクリントン氏に挑み、ホワイトハウスを目指す物語はある意味で「究極のリアリティ番組」とも言える。その「トランプ編」を観たいと思う有権者の内なる鬱憤は決して過小評価すべきではないと私は思う。
-------------------------------------------- ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など