鉄拳当たり前、毎年出る“脱走者”「いい選手がやめる」 名門の理不尽な寮生活
先輩の指示で雨降る夜にグラウンドで水撒き…脱走者も出た寮生活
横浜・渡辺元智監督の厳しい目も光る練習試合は、それこそ全員が恐怖に思っていたそうだ。「練習試合の前の晩に雨が降っていたんですけど、先輩に『おう、お前ら今から水を撒いてこい』って言われたことがありましたよ。雨がけっこう降っているのに、さらにグラウンドをグチャグチャにして(翌日に)絶対試合ができないようにするためにね。夜中に、ですよ。そしたら監督に見つかっちゃって、食堂に全員集合。『お前ら何で水撒いているんだ』って……」。 今ではあり得ない理不尽なことばかりだった。「やっぱりねぇ、昔は強烈じゃないですか。もう平気でいろいろバンバンバーンってやるんでね。いい選手がやめるなんてこともありましたね。毎年1回は脱走がありました。僕はそこまでにはならなかったですけどね。まぁ、脱走しても結局いつもみんな帰ってはくるんですけどね」。どうしても、まずはつらかった日々ばかりが思い出されるようだ。 「寮のご飯は監督の奥さんが作ってくれました。その後、監督の娘さんが(寮母を)やっていたんですよね。僕らの時は、娘さんがまだ3、4歳の頃ですよ。寮も僕らが卒業してから建て替えられたんですよ。その映像を見た時、二段ベッドがあって『こんなところに寝られるようになったのか』って思いましたね。僕らの時は雑魚寝でしたから。もうひどかったですからね」 “恐怖の時代”をすべて笑いながら話したが、当時はその日その日をクリアするのに必死で、余裕など全くなかったことだろう。「渡辺監督はカットプレーがうまくできないとすごく怒っていましたよ。それに小倉(清一郎)さんも途中から(監督として)来て……。小倉さんもまたすごく怖かったのでね。ホンマに」。中田氏はそう言って、また笑った。
山口真司 / Shinji Yamaguchi