腹をくくった?トランプ氏 撤退論浮上もテレビ討論会で攻撃的姿勢
プロ政治家なぎ倒す「変革者」
第2回目の討論会でトランプ氏は、直前にビル・クリントン元大統領と不適切な関係にあったとされる女性たちと記者会見を開き、討論会ではヒラリー・クリントン氏をメール問題に関して「刑務所に入るべき」と述べた。「大統領らしさ」を演出した党大会の氏名受諾演説や第1回目の討論会と比べるとその差は歴然で、予備選期間中の攻撃で荒々しいトランプ氏に戻った場面も散見された。このまま支持率が好転しなければ、直接対決の最終戦である第3回目の討論会は、まさにボクシングのグローブを脱いで、ストリート・ファイトさながらの戦いを仕掛けてきそうな気配さえ漂う。 そうすれば態度未決の有権者の心はますます離れるだろう。しかし、それこそまさに熱心な支持者が求めて止まない「ザ・トランプ」でもある。政治的な建前論(ポリティカル・コレクトネス)に囚われず、本音を語り、プロの政治家をなぎ倒してゆく「変革者」としての勇姿だ。 共和党の主流派や指導層にとってそれは完全なる悪夢である。すでに今回の大統領選は諦め、連邦議会で多数派を死守することに専念すべきとの声が支配的になりつつある。状況としては1996年の大統領選でビル・クリントン氏に勝ち目がないと見限られたボブ・ドール上院議員と似ている(ただし、ドール氏は上院院内総務を務めるなど党内の重鎮で、党内からの人望の厚さはトランプ氏の比ではなかった)。 共和党内からは今回、むしろトランプ氏の大敗を期待する声され聞かれる。「それ見たことか」と「トランプ的なるもの」を否定し、本来の共和党の姿を取り戻しやすくなるというのがその理由だ。
クリントン氏勝利の確率「80%超」
クリントン氏としては、健康問題やメール問題の再燃、あるいは新たな失言・疑惑の発覚を回避しつつ、逃げ切りを図りたいところだ。「トランプ氏は『変革者』などではなく『破壊者』」であり、「大統領や最高司令官としての資質に欠ける」と訴え続けてゆくだろう。 討論会後は支持者を実際に投票所へと向かわせる「地上戦」が鍵になる。ペンシルバニアやオハイオ、ノースカロライナ、フロリダといった激戦州では選挙事務所数、スタッフ数、資金力などにおいてクリントン氏が引き続き圧倒している。 米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」はクリントン氏が340人、トランプ氏が198人の選挙人を獲得すると分析し、高い精度の選挙予想データで知られる米ウェブサイト「ファイブ・サーティ・エイト」は勝利の確率をクリントン氏82.5%、トランプ氏17.5%と算出している(どちらも10月11日時点)。
--------------------------------- ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など