寄稿 佳曲に再び注目を 「古関裕而の新民謡と地域振興」発表 日本大学商学部教授・刑部芳則さん
福島市出身の作曲家古関裕而は、2020年のNHKの連続テレビ小説「エール」のモデルとなったため、全国的に再認識された。また昨年は作曲家にして初の野球殿堂入りとなり、再び注目を集めた。現在、古関は福島市の観光PRの目玉となっている。生前に福島の地域活性化を目的にした作品を数多く残した古関にとって、これほどうれしいことはないのではないか。古関は福島に限らず、全国からの依頼を受けて各地の地域振興曲を作曲している。しかし、そうした佳曲は、古関の代表曲である「船頭可愛いや」「露営の歌」「長崎の鐘」「高原列車は行く」などのヒット曲の影に隠れ、ほとんど知られてこなかった。 朝ドラ「エール」でも、作曲家古賀政男がヒットを飛ばす一方、ヒット曲に恵まれずに苦労する古関の姿が描かれた。古関は「船頭可愛いや」や「露営の歌」がヒットするまで、コロムビアから各地の新民謡の作曲が回されることが少なくなかった。地域限定の新民謡はヒットする可能性が低いため、ヒットメーカーの作曲家が忌避する仕事であった。真面目な古関は手を抜くことなく、全力投球で仕上げている。
三重県四日市市の「躍進四日市」、富山県の「大富山行進曲」、福井県敦賀市の「大敦賀行進曲」、長野県上田市の「菅平シーハイル」など、どれも心地の良い古関メロディーである。新民謡は日中戦争の長期化およびアジア・太平洋戦争によって中断するが、戦後に再び作られる。広島県の「歌謡ひろしま」や長崎県の「長崎盆踊り」は、1949(昭和24)年の「長崎の鐘」よりも前に作曲された鎮魂歌であった。 古関の新民謡は、昭和20年代は戦後復興、同30年代は観光誘致と経済振興のPRとして活用された。戦後はヒットメーカーになった古関に作ってほしいという要望が強くなる。北海道札幌市の「狸小路ばやし」や群馬県沼田市の「沼田天狗ばやし」など、聴いてみたくなるタイトルも存在する。しかし、栃木県宇都宮市の「宇都宮ヘルスセンター音頭」のようにすでに廃業してしまった施設や、静岡県静岡市の「興津の四季」のように合併によって消滅してしまった行政地区もあり、時の流れとともに忘れられてしまった作品も少なくない。