瀬戸内の“ナゾの人口5人の島”「小佐木島」には何がある?〈新幹線駅から約30分、船は1日3~4本…〉
「1周徒歩30分もない島」にはスーパーもコンビニも自動販売機もなく…
波止場のすぐ先には民家が集まっている小集落がある。この集落の中を歩いても、ものの5分でひとまわり。さらに、島の外周をぐるりと取り囲む道を歩いたところで、これまた30分もあれば波止場まで戻ってきてしまう。 つまり、小佐木島はとても小さくて、そしてまったく何もない。面積を調べてみたら0.5平方キロメートルほどに過ぎない。スーパーもなければコンビニもないし、自動販売機すらない。 あるものといったら、外周道路のど真ん中にこんもりと蓄えられた野生動物の糞くらい。そりゃあもう、これほどの島なのだから、野生動物だっているだろう。糞の主はタヌキかイノシシか。さすがに瀬戸内海にクマはいないだろうから、その点はちょっぴり安心である。 こんな何もない小佐木島。けれど、小集落の中にはちゃんと整備された畑があるし、携帯電話の電波も届く。住んでいる人がいるのだから当たり前だが、インフラはきちんと整っている。 とてつもなく不便そうに思えても、船に乗ったら三原の市街地にすぐに着くのだから、渋滞&満員電車まみれの大都市近郊と比べても実はけっこう便利な場所なのかもしれない。
歩いているとやたらキレイな建物が。これは…
そんな島の中で、違和感を感じるくらいキレイにリノベーションされた建物がいくつか建っている。そのひとつが、「宿NAVELの学校」という宿泊施設だ。 北海道に拠点を置く建築家・鈴木敏司さんが古民家をリノベーション、2018年から宿泊施設として運営しているのだとか。鈴木さん、どうして小佐木島でこんなことをしているのだろうか。 「実は子どもの頃に三原に住んでいまして、海水浴で小佐木島によく行っていたんです。本土側の海はどうしても汚くて、海水浴となったら小佐木島。歳をとって、これからは世のため人のためになることをしたいなと思っていたときに、その思い出がよみがえってきた。 訪れてみると、これがまあ良かったんです。島の人が温かくて、すぐに心を開いてくれて、『こっちに来いよ』って言ってくれた。それで、本当に来ちゃったんです。たくさん声をかけても、本当に来たのは私くらいだったみたいですけど(笑)」(鈴木さん) そうして古民家をリノベして、「宿NAVELの学校」の運営をはじめた。ちなみに、この島に就航しているのは人が乗るだけの高速船で、リノベのための資材を運ぶことはできない。 そのため、鈴木さんは6回も船をチャーターしたのだとか。集落の真ん中に「宿NAVELの学校」、さらに少し離れたところにはサウナも設けた。かつてみかん畑だった場所に生い茂る竹を燃料にした、低温のサウナだ。 「子どもでも入ってもらえると思うんですよね。目の前には瀬戸内海が広がっていて、ほんとうに最高ですよ。サウナを出たらそのまま海にザブン……とは、私の立場では言えませんが(笑)。ここで何もしない時間を過ごす。その価値は、計り知れないものがあると思いますよ」(鈴木さん) そして、この「宿NAVELの学校」を核とした交流の取り組みもはじまっている。たとえば、5月のとある週末。広島市内の新築マンションの購入予定ファミリーが島を訪れ、鈴木さんのガイドで散策したり、竹の伐採をしたり。そしてサウナや食事も楽しんだ。ごく小さな規模のイベントながら、島の人々との交流もできたようだ。