鍋持参でテークアウト 帯広で絶大人気のカレー専門店「インデアン」
帯広で2番目においしい店――。北海道帯広市で1899(明治32)年に創業して、125年の歴史を刻む老舗飲食業の藤森商会が掲げる理念だ。5代目社長の藤森康容さん(35)は「もちろん一番は母親やパートナーがつくる家庭の味。たまに外食しようというときに、真っ先に浮かぶ『地元の味』でありたいということ」と言葉に込めた真意を語る。 【写真】カレー専門店として開店した当時のインデアン1号店 現在、藤森商会の運営店はJR帯広駅前の中心街にある老舗飲食店「ふじもり」と帯広市を中心に計13店舗を展開するカレー専門店「インデアン」。食を通じて「2番目の店」は市民生活に溶け込んでいる。 店の土台を築いたのは木材業を展開しようと長野県から移住した初代の藤森熊作氏(1864~1935年)だった。洪水被害で材木が流されて計画を断念した後、まんじゅうの製造販売にかじを切った。1905(明治38)年の帯広駅開業に合わせて駅構内に待合所を開設。そこで食品を提供したのが「ふじもり」の始まりだった。 戦後すぐに現在地に移転して業績は堅調に推移した。だが、1960年代に入り、外食の主流が個人経営から大手の全国チェーンへとなって、3代目社長の藤森照雄氏(1930~2010年)が新たな事業展開を模索する。康容社長は「このままで時代についていけるかという葛藤の中、『ふじもり』で人気だったカレーを売りにした専門店をつくろうと決断したと聞いています」と言う。 照雄氏は準備に2年間を費やし、国内の著名なカレー店を食べ歩いて研究を重ねた。1968(昭和43)年、「ふじもり」の店舗ビル内に「インデアン」を開店。市民の胃袋をがっちりつかんだ。全国チェーンのカレー店が帯広に一切、入り込めない絶大な人気を誇る「ソウルフード」の誕生だった。 人気の背景は、照雄氏から4代目社長で現会長の藤森裕康氏、康容社長へと継がれた一子相伝のルーのスパイスの調合にある。13店舗の年間のカレー販売数は約250万食を超える。市民が店に鍋を持参し、購入したルーを入れてもらって持ち帰るスタイルも、インデアンではごく当たり前の光景で、テークアウトは売り上げの4割を占めるほどだ。 この「鍋持参」、ルーツは開店当初にさかのぼる。当時は、カレー専門店という新形態になじみがなかったためか、客足が伸びず、仕込んだルーも売れ残る日々が続いていた。「ひと口でも食べてもらえれば分かるはずだ。ルーを無駄にしたくない」。やむにやまれず照雄氏が声を上げた。「鍋でも容器でも持ってきてくれたら、ルーを入れるよ」と。すると、片手に鍋を持った来店者が徐々に増えた。おいしさも認知され始めた。 学校祭などのイベントにカレーの大鍋を届けるなど地域密着の姿勢を貫き、23年10月からは市民要望に応えて冷凍カレーの販売も開始した。市内で大人気のパン製造会社と手を組み、ナンを使ったコラボ商品の開発を進めるなどと新たな試みにも積極的だ。十勝産の食材の利用にもこだわる。 22年に5代目に就任した康容社長は「昼食で来店した人が夜にまた食べに来てくれることもあり、本当に感謝しています。地元に育てていただいた会社なので、これからも地域に必要とされる存在でありたいですね」と笑顔を見せた。 ◇冷凍カレーも好評 地元を離れた家族にインデアンの味を届けたい--という地域住民の要望に応え、2023年10月から販売を始めた「冷凍カレー」が大好評だ。藤森商会の関係者も「想定を超える売れ筋商品になった」と驚き、さらにPRに力を入れる。 従来、持ち帰ったルーを自宅で冷凍していたが、その手間が省けるのが人気の大きな理由だ。1パック500円。エスタ帯広店や芽室店など8店舗で販売されている。店頭販売のみで、地方発送やネット販売は行っていない。【鈴木斉】