「睡眠不足は太る!」「気づかないうちに仕事ができない人に…」日本人が知らない睡眠不足の本当の怖さ。重病のリスクも増
自覚できない生産性低下
睡眠不足は健康に悪影響をもたらすだけでなく、仕事の生産性も下げる。 48名の被験者を、無作為に異なる睡眠パターンに割り付けて、頭の働きを評価した研究[*10後注2]がある。この研究において被験者はそれぞれ、4時間、6時間、8時間睡眠を14日間続ける3つのグループ、そして3日間徹夜という合計4つのグループに割り付けられ、PVT(Psychomotor Vigilance Test:精神動態覚醒水準課題)と呼ばれる覚醒水準や作業能力を評価するテストを受けさせられた。 その結果、睡眠時間が短いほどミスが多いということが分かった(図1A)。 さらに興味深いことに、自覚している眠気の強さとミスの頻度は比例していなかった。 図1Bを見てほしい。3日間徹夜の人のグループを除いて、睡眠時間の長短にかかわらず、4~5日すると眠気はそれ以上大幅には強くならなかったのである。 さらに、眠気の強さに関しては、6時間睡眠でも4時間睡眠でも大差なかった。 つまり、自分が眠気を自覚しているかどうかは関係なく、睡眠不足は気づかぬうちに私たちの生産性を落としているのである。 睡眠不足による経済的損失も大きい。 アメリカを代表するシンクタンクであるランド研究所が2016年に出版したレポートによると、睡眠不足による生産性の低下によって、日本では毎年60万日分の労働日数が失われており、これによる経済的損失は実に約15兆円(GDPの3%)に上ると試算[*11]されている。 図/書籍 津川友介著『あなたを病気から守る10のルール』より 写真/shutterstock
脚注
*1 Daghlas I et al. Sleep Duration and Myocardial Infarction. J Am Coll Cardiol. 2019;74(10):1304-1314. *2 Domínguez F et al. Association of Sleep Duration and Quality With Subclinical Atherosclerosis. J Am Coll Cardiol. 2019;73(2):134-144. *3 Genuardi MV et al. Association of Short Sleep Duration and Atrial Fibrillation. Chest. 2019;156(3):544-552. *4 Besedovsky L et al. Sleep and immune function. Pflügers Arch. 2012;463(1):121-137. *5 Kurina LM et al. Sleep duration and all-cause mortality: a critical review of measurement and associations. Ann Epidemiol. 2013;23(6):361-370. *6 Patel SR & Hu FB. Short Sleep Duration and Weight Gain: A Systematic Review. Obesity(Silver Spring). 2008;16(3):643-653. *7 Cappuccio FP et al. Meta-Analysis of Short Sleep Duration and Obesity in Children and Adults. Sleep. 2008;31(5):619-626. *8 Spiegel K et al. Brief Communication: Sleep Curtailment in Healthy Young Men Is Associated with Decreased Leptin Levels, Elevated Ghrelin Levels, and Increased Hunger and Appetite. Ann Intern Med. 2004;141(11):846-850. *9 Greer SM et al. The impact of sleep deprivation on food desire in the human brain. Nat Commun. 2013;4:2259. *10 Van Dongen HPA et al. The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation. Sleep. 2003;26(2):117-126. *11 Hafner M et al. Why Sleep Matters ― The Economic Costs of Insufficient Sleep: A Cross-Country Comparative Analysis.Rand Health Q. 2017;6(4):11. *12[https://www.sleepfoundation.org/how-sleep-works/how-much-sleep-do-we-really-need]を参照。 *13 Dunster GP et al. Sleepmore in Seattle: Later school start times are associated with more sleep and better performance in high school students. Sci Adv. 2018;4(12):eaau6200. *14 [https://www.economist.com/1843/2018/03/01/which-countries-get-the-most-sleep]を参照。 後注1 くじ引きやコインを投げたその結果によって、介入(薬を飲むなど)を受けるグループと受けないグループの2つに割り付ける手法のことを、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)と呼ぶ(COLUMN5「エビデンスについて」で詳説)。この研究では、遺伝的な違いによって生まれながらにして睡眠時間が短い人と長い人がいることを利用することで、RCTのような状況を作り出す研究手法(「メンデルのランダム化解析」と呼ばれる)が用いられており、よって結果の信頼性は高いと考えられる。 後注2 くじ引きやコインを投げたその結果によって、介入(薬を飲むなど)を受けるグループと受けないグループの2つに割り付けるRCT。RCTでは2つのグループの唯一の違いは介入を受けたかどうかであるため、介入の因果効果を正しく評価できる。一方で、このような実験を行わずに、集団を外から観察して、その中で介入を受けていたグループと、受けていなかったグループを比較する研究手法があり、それは「観察研究」と呼ばれる。この場合、2つのグループは色々な点で異なるため、本当に介入の影響を見ているのか、その他の要因の影響を見ているだけなのか見分けることが難しい。年齢や性別などデータに含まれる要因に関しては、統計的な手法を用いることで影響を取り除いて比較することができるのだが、「健康意識」などデータに含まれない要因の影響は統計的に取り除くことができないため、観察研究から得られた結果は、RCTから得られた結果よりも信頼性が低いとされている。
---------- 津川友介(つがわ ゆうすけ) 東北大学医学部を卒業後、ハーバード大学で修士号、博士号を取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。著書に10万部超のベストセラー『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』、『世界一わかりやすい「医療政策」の教科書』、共著に『「原因と結果」の経済学』などがある。 ----------
津川友介