FCNTの「らくらくスマートフォン」が3機種に増加。その背景に“親子”の思惑あり
2024年に中国レノボ・グループ傘下で復活を果たし、8月には新機種「arrows We2」「arrows We2 Plus」を投入したFCNT。だが、FCNTの復活で期待されていたのはarrowsシリーズだけでなく、もう1つ同社の看板となっているシニア向けスマートフォンの定番、「らくらくスマートフォン」シリーズの復活も期待がなされていた。 【画像】「らくらくスマートフォン F-53E」 ■「らくらくスマートフォン」が3機種に増加した背景とは だが同社は、arrows We2シリーズを発売した8月に、らくらくスマートフォンの新機種を投入することを予告。そして昨日10月31日、ついにらくらくスマートフォンの新機種を発表したのである。だが今回発表されたらくらくスマートフォンは、従来とは大きく異なる部分が2つある。 1つは、3つのモデルが用意されたこと、もう1つは、販路が大きく広がったことだ。らくらくスマートフォンシリーズといえば、従来NTTドコモ専売モデルとして知られていたのだが、今回のらくらくスマートフォン新機種は3つとも、それぞれ異なる販路で販売されるモデルとなる。 1機種目は、NTTドコモから販売される「らくらくスマートフォン F-53E」である。これは2022年に発売された「らくらくスマートフォン F-52B」の正当な後継モデルというべき存在で、F-52Bと比べた場合ディスプレイに5.4インチの有機ELを搭載し、画面サイズを大型化したことが大きな変化となる。 カメラに関しても、広角・超広角の2眼構成を維持しながらも、広角カメラに5030万画素のソニー製イメージセンサー「IMX882」を採用し、さらに光学式手振れ補正も搭載。AI技術も活用するなどして、より暗い場所にも強く、撮影しやすいカメラへと強化が図られている。加えてarrows We2 Plusに搭載されていた自律神経測定機能が追加されたほか、ベースの性能に関しても、クアルコム製のミドルクラス向けとなる「Snapdragon 6 Gen 3」を搭載するなどして強化が図られており、全体的な機能・性能の向上が図られている様子がうかがえる。 一方で、画面を押し込むことでタッチ操作ができる「らくらくタッチパネル」を継続して採用する。なおかつホーム画面も大きなアイコンのボタンがタイル状に並んだ、従来のらくらくスマートフォンと同じものを使用。独自のコミュニティサイト「らくらくコミュニティ」が利用できる仕組みが整えられているなど、従来のらくらくスマートフォンらしさを維持し、使い勝手を大きく変えないことに力を入れている様子もうかがえる。 他の2機種は、従来と毛色が異なっている。1つはソフトバンクのワイモバイルブランドから提供される「らくらくスマートフォン a」だ。らくらくスマートフォンがソフトバンクから販売されることにも驚きはあるのだが、より大きな驚きとったのは、らくらくスマートフォンの特徴をいくつか引き継ぎながらも、新しいチャレンジがなされていることだ。 最も大きな違いがディスプレイで、F-53Eより一層大型となる6.1インチの液晶ディスプレイを搭載している。ホーム画面はF-53Eと同様、らくらくスマートフォンらしいものとなっているが、らくらくタッチパネルは搭載されていないなど操作面でも違いがあるようだ。 他にもカメラは約5010万画素と、F-53Eより性能は抑えられているほか、チップセットもMediaTek製の「Dimensity 7025」を採用しているなど、F-53Eとはいくつか違う部分があるようだ。またワイモバイルが販売することもあり、チャットで健康相談ができる「かんたんHELPO」、ウォーキング支援の「うごくま」など、ソフトバンク系の企業が提供するサービスがプリインストールされていることも、大きな違いといえるだろう。 そしてもう1機種が、「らくらくスマートフォン Lite MR01」である。これはらくらくスマートフォン aをベースに、オープン市場に向けたSIMフリーモデルとして提供されるもの。ハード面ではらくらくスマートフォン aと大きな違いはないのだが、ソフトバンク関連のサービスがプリインストールされていないほか、「押すだけサポート」「らくらくホンセンター」など、他の2機種では専用のボタンを押すことで利用できる特別な電話サポートが用意されていない点も大きな違いとなる。 だがそれだけに汎用性が高く、販路も広いようで、家電量販店やECサイト、MVNO、そしてNTTドコモからも販売されるとのこと。従来MVNOに向けてはシニア向けスマートフォンがあまりなかっただけに、そうした需要を満たす存在となる可能性は高いだろう。 ただここで気になるのが、なぜFCNTは1つのハードウェアを複数の販路に展開するのではなく、あえて2つのハードウェアを用意したのか?ということである。その理由はらくらくスマートフォンを持つシニアと、その子供という2つの視点の違いから見えてくる。 まず子供側からの視点でいうと、実はここ数年来、親がらくらくスマートフォンのようなシニア専用スマートフォンを持つよりも、一般的なスマートフォンを使ってもらった方がよいという声をよく聞くようになった。その理由は、子供が普段使用しているスマートフォンであれば、親に使い方を教えられるからである。 らくらくスマートフォンが独自のインターフェースを採用しているように、シニア向けスマートフォンは一般向けスマートフォンと操作性が異なる部分が多い。一方でシニアはスマートフォンに詳しくないことが多く、誰かに使い方を相談する機会が非常に多い。ゆえにその相談相手となりやすい子供の側からすると、シニア向けスマートフォンは使ったことがなく、使い方を教えてあげられないことが問題視されるようになってきているのだ。 一方で親側の視点からした場合、シニア向けスマートフォンの新機種に対して、とにかく使い方が変わらないことを求める声が非常に多い。機種を変えて使い方が変わってしまうと、スマートフォンの使い方以前に、その使い方を覚え直す必要があり負担となってしまうからだ。 だが一方で、らくらくスマートフォンは世界的に見て特殊な要素が多く、年々開発がしづらくなっているという。例えばF-53Eのディスプレイには5.4インチの有機ELを搭載しているが、スマートフォンの大画面化が進む昨今にあって、これだけ小さい有機ELのパネルは汎用品では存在せず特注になってしまうことから、それだけコストが上がってしまうのだそうだ。 とはいえ、現在NTTドコモでらくらくスマートフォンを使っているユーザーは、使い勝手を変えないで欲しいという声がおよそ90%と、圧倒的多数を占めている状況にある。そうしたニーズに応えながらも、部材や子供側のニーズなど、環境変化に対応することを考慮した結果が、今回の2モデル展開へとつながっているのではないだろうか。 実際F-53Eは、従来機種と変わらない使い勝手を実現することに注力している一方、販路は既にらくらくスマートフォンを持っている人が多いNTTドコモだけに絞っている。その一方で、新たな販路となるソフトバンクやMVNOなどに向けては、変化した環境を意識し、ディスプレイに汎用パネルを採用するなど一般的なスマートフォンに近い内容でハードウェアを再構築したといえそうだ。 さらに言えば、NTTドコモもF-53Eだけでなくらくらくスマートフォン Liteを取り扱っており、従来のユーザーだけでなく新たなニーズにも応えようとしている様子がうかがえる。従来通りのモデルを開発し続けるのが難しくなっているだけに、ハード面で変化を与えユーザーの移行を促す考えもあるのかもしれない。 とはいえ筆者も、後期高齢者の親を持つ身であり、シニアの人達が年々進化するスマートフォンの扱いに非常に苦労している様子は幾度となく見てきている。それだけに正直なところ、同じモデルを5年、10年と長きにわたって販売し、壊れたら同じ機種に買い替えられる環境を用意することこそが、シニアにとって最も幸せなスマートフォンのあり方なのでは?とも感じている。 もちろん、同じスマートフォンを長期間販売するには、部材の確保だけでなくOSのアップデートなど、さまざまな問題を抱えることから非常に難しいことは重々している。だが主要なユーザー層が変化を求めていないことを考えると、同モデルの長期間販売は今後のシニア向けスマートフォンの1つのあり方として、検討の余地があるのではないだろうか。
佐野正弘