亡き母の預金1,200万円。引き出すには“相続人全員”の署名押印が必要だが、兄とは「もう関わりたくない」…〈遺産分割協議書〉作成時の検討事項は?【弁護士が解説】
弟を仲介者として行った遺産分割協議で1,200万円の預金全部を相続することになった相談者。その受け取りには相続人全員の署名押印が必要だということがわかりましたが、兄とは20年以上も口を利いておらず、必要書類の準備が困難だといいます。本稿では、弁護士・相川泰男氏らの著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、法定相続分を超える預金債権の払戻し等にかかる手続きについて解説します。 都道府県「遺産相続事件率」ランキング
法定相続分を超える預金債権の払戻し
母が亡くなり、相続人は兄、私、弟の三人です。兄とは20年以上口を利いていません。遺産分割協議は弟を仲介者にしてなんとか成立し、私が1,200万円の預金全部を相続しました。銀行のHPで預金を引き出すために必要な手続を調べたら、相続人全員の署名押印が必要だと書いてありました。これ以上、兄と関わりたくありません。 紛争の予防・回避と解決の道筋 ◆預金の払戻しには、遺産分割協議書のほか、金融機関所定の手続が必要となる場合がある ◆法定相続分を超える遺産の取得については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない ◆債権の承継の対抗要件を備えるには、譲渡人(相続の場面では、共同相続人全員)から債務者に対する通知または債務者の承諾(債務者以外の第三者に対しては確定日付のある証書による)が必要であるが、受益相続人以外の相続人に債務者への通知を期待することは困難な場面も多い チェックポイント 1. 遺産分割協議書作成前に銀行の払戻手続を確認するとともに、遺産分割協議書の中で代表相続人を指定して、預金の払戻権限を与えることを検討する 2. 遺産分割協議の内容が法定相続分を超えている場合には、遺産分割協議書作成時に共同相続人全員で通知書を作成し、債務者への通知を検討する 3. 共同相続人全員からの通知が困難な場合には、受益相続人から債務者へ、遺産分割の内容を明らかにして承継の通知を行うことを検討する