<いつもと違う夏>2020高校野球・神奈川/上 舞岡 1試合に懸ける「交流試合」 3年生全員、最後は笑顔で /神奈川
◇受験控え、仲間と心一つに 「1試合でもいいから、笑顔で終わりたい」。8月1日に開幕する、第102回全国高校野球選手権神奈川大会に代わる独自大会「県高校野球大会」で、舞岡は勝っても次戦はない「交流試合」に出場する。受験を控え、勝ち進んだら大会を途中で抜けなければならない部員が出てくるかもしれないという3年部員の意見から「1試合だけの参加」を決めた。「最後まで3年生全員で、欠けることなく試合がしたい」という思いが強かった。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 昨年の神奈川大会。舞岡は3回戦で横浜創学館に4-12で敗れ、夏を終えた。今年副主将を務める目次優斗選手(3年)はその時の悔しさが忘れられない。私立の創学館は部員数が100人を超えるチームで、投手の差を感じた。5番センターで出場したが、無安打に終わっていた。「そんなチームの投手からヒットを打ちたい」。その一心で練習に取り組んできた。 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で舞岡は2月末から部活動を休止した。5月20日には夏の甲子園の地方大会も含めた中止が発表される。自分たちにとって最後の夏はどうなるのか。他県では独自大会の開催が次々に発表されていく中、目次選手は「なんとか最後に試合をしたいけど、できるのか不安だった」という。 チームメートも同じ思いだった。長野宏翔主将(3年)は「目標にしてきた夏の大会がなくなった。どうなってしまうのか」。それでも、試合ができると信じてみんなが自主練習に取り組んだ。3年が呼びかけ、自主的に集まった部員が学校近くの球場でキャッチボールやノックなどの練習に汗をかいたこともあった。 6月12日。県高野連が独自大会の開催を発表する。各校に示された選択肢には、出場と欠場のほかに「1試合のみの出場」があった。大会は例年より約1カ月後ろ倒しの日程で、「進路活動に支障が出ないように」と、1試合のみの出場という選択肢を設けたという。 三富優希監督(26)は「3年生の意向を尊重したい」と、マネジャーを含め3年9人全員の考えを確認することにした。長野主将が3年の部員1人ずつに電話をかけた。欠場を希望する者はいなかったが、「1試合のみの参加」を希望する部員が多かった。ただ、突然のことで部員はみんな戸惑った様子だった。「考えておいてほしい」と告げ、電話を置いた。 分散登校中で全員で相談する場を設けることは難しい。意見を聞こうと、どの形での出場を希望するのかを大会にかける思いともに、分散登校で来ていた学生を集め、アンケートに書いてもらった。「1試合に懸け、笑顔で終わりたい」という意見が多く、約4カ月部活を休止していたことで「ベストな状態で試合に臨めない」という懸念の声もあった。 6月下旬、長野主将と三富監督が話し合った。「トーナメントで実力を知りたい」と考えていた長野主将だったが、1試合での出場を希望する意見が大半だったアンケートの結果を見て「3年が納得できるのがベスト」という三富監督の言葉にうなずいた。 目次選手も複雑だった。トーナメントでの出場を望んでいた。交流試合での参加では、目標としていた、強豪私立の投手との対戦はかないそうになかったからだ。 1試合での参加を望む意見が出ることは予想できていた。「つらい練習をともに耐えてきた仲間と最後に笑顔で終わりたい」という気持ちは同じだ。すぐには納得できなかったが、「野球はひとりではできない」と仲間と心を一つにしようと決めた。「今までやってきた2年半の価値を示せるように、勝って終わりたい」 「最後の1試合」は8月4日、午後2時半にプレーボールの予定だ。【宮島麻実】 ◇ 新型コロナで甲子園出場という最大の目標を失っただけでなく、練習時間が限定されるなどさまざまな影響が出た今年の高校野球。球児の「いつもとは違う夏」を取材した。