なぜ憎しみは生まれる? 脳科学者が明かす「人を攻撃に駆り立てる」脳内物質
脳科学者の中野信子さんによると、他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質である「ドーパミン」が放出されるといいます。この正義に溺れてしまった「正義中毒」の状態が、人同士の対立を生んでいるのです。正義と同調圧力の関係について、書籍『新版 人は、なぜ他人を許せないのか?』より解説します。 人間関係が良くなる8か条 ※本稿は、中野信子著『新版 人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
正義中毒のエクスタシー
人は、本来は自分の所属している集団以外を受け入れられず、攻撃するようにできています。 そのために重要な役割を果たしている神経伝達物質のうちの一つが、ドーパミンです。私たちが正義中毒になるとき、脳内ではドーパミンが分泌されています。ドーパミンは、快楽や意欲などを司っていて、脳を興奮させる神経伝達物質です。端的に言えば、気持ちいい状態を作り出しています。 自分の属する集団を守るために、他の集団を叩く行為は正義であり、社会性を保つために必要な行為と認知されます。攻撃すればするほど、ドーパミンによる快楽が得られるので、やめられなくなります。自分たちの正義の基準にそぐわない人を、正義を壊す「悪人」として叩く行為に、快感が生まれるようになっているのです。 自分はそんな愚かしい行為からは無縁だ、と考える方もいるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか? 例えば、テレビを見ていたら、どこかのある親が自分の子どもを虐待しているような、ひどいニュースが流れていたとします。食べ物を与えない、暴言を浴びせる、殴る、放置する、その様子を動画で撮影する......そして傷つき、命を落とす子ども。ひどい話で、およそ子を持つ親の所業とは思えないような事件です。 マスコミは連日詳細を報じます。この親は他にもこんなひどいことをしていた、周囲からこんな証言が得られた、子どもがSOSを出していたのに、なぜ行政はうまく活かせなかったのか。このような人間に親の資格があるのか、地域は、学校は、児童相談所は何をしていたのか......。さまざまな思いが去来することでしょう。 このようなとき、こうした出来事とは全く無関係な一人の視聴者としての私たちは、無関係ゆえに絶対的な正義を確保している立場にいます。自分は、こんな風に子どもを虐待しないと思っています。そして、正義の基準からはみ出して注目を浴びてしまっている人に対して、いくら攻撃を加えようとも、自らに火の粉がふりかかることはありません。 「ひどいやつだ、許せない! こんなやつはひどい目に遭うべきだ、社会から排除されるべきだ」と心の内でつぶやきながら、テレビやネットニュースを見て、自分には直接の関係はないのに、さらなる情報を求めたり、ネットやSNSに過激な意見を書き込んだりする行為。これこそ、正義中毒と言えるものです。このとき人は、誰かを叩けば叩くほど気持ちがよくなり、その行為をやめられなくなっているのです。