ディズニー100周年記念作『ウィッシュ』レビュー。他者の願いを願い、叶えることとは? 本作から考える「利他主義」と「利己主義(エゴイズム)」のゆらぎ(評:関根麻里恵)
ウォルト・ディズニー・カンパニー100周年記念の最新アニメーション『ウィッシュ』。12月15日(金) 全国ロードショー
2023年、創立100周年を迎えるウォルト・ディズニー・カンパニー。その記念作となるアニメーション最新作がドラマティック・ミュージカル『ウィッシュ』だ。『アナと雪の女王』のスタッフ陣らが生み出した本作は、長きにわたりディズニー作品が描き続けてきた「願いの力」を真正面からテーマとして描く。そんな記念作を、「利他」をキーワードに表象文化研究者の関根麻里恵が論じる。【Tokyo Art Beat】 ディズニー100周年記念作『ウィッシュ』の画像をもっと見る *本記事では、論じるうえで必要な範囲で作品の結末に触れています。
ディズニーが提示してきた「夢」や「願い」、そして「魔法」
「All our dreams can come true, if we have the courage to pursue them. (追い求める勇気さえあれば、すべての夢は叶う)」 これはウォルト・ディズニーの有名な言葉であるが、「夢」や「願い」というものは、ディズニー社が様々なメディアを通して提示してきたキーワードだ。アニメーション作品や実写映画はもちろん、世界のパークで披露されるパレードやショーでもこのキーワードが散見される。直近の例でいうと、2016年に開催された東京ディズニーシー15周年を祝うハーバーショー「クリスタル・ウィッシュ・ジャーニー」がある。本ショーは、それぞれの願い(=ウィッシュ)の結晶であるクリスタルを光輝かせることによって進むべき道が示されるという物語が紡がれており、「願い=心の道しるべ」というメッセージが込められている。 また、「夢」や「願い」を叶えるものとして「魔法」も重要な要素である。たとえば、『ピノキオ』(1940)ではブルー・フェアリーがゼペットじいさんの願いを、『シンデレラ』(1950)ではフェアリー・ゴッドマザーがシンデレラの願いを魔法を使って叶える。このように、ディズニーにおいて願うことや夢見ることは、魔法とセットで語られる傾向にあるといえよう。 では、ディズニーにとって「夢」や「願い」、そして「魔法」とはどういったものなのか。それについて検討するにあたって、2020年3月からディズニーランド(カリフォルニア州アナハイム)で始まった「魔法が生まれる瞬間」をテーマにしたパレード「Magic Happens」を紹介したい(*1)。本パレードは、シンガーソングライターのトドリック・ホールが楽曲を描き下ろしており、歌詞にはホールなりの魔法の解釈が散りばめられている。そこでは、翼はなくても、深夜を過ぎたとしても、ハートには抗えない輝きがあって、誰にでも魔法は起きる(Magic Happens)と力強いメッセージが提示される。この歌詞が採用されたということは、少なくとも100周年を迎えようとするタイミングでディズニー社が「夢」や「願い」、そして「魔法」に対しての解釈がホールと一致しているといえよう。すなわち、ハートには抗えない輝き、つまり自分にとって希望となるもの(=夢、願い)を持つ人には平等にきっかけ(=魔法)が訪れるというのだ。 先の『シンデレラ』や『ピノキオ』も、夢や願いを叶えてくれた魔法はあくまでそれらを成就させるためのきっかけに過ぎず、最終的には本人(『ピノキオ』の場合は叶えられて生まれたピノキオ)の努力と勇気が必要不可欠であったことが思い出される。 ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念して制作された長編アニメーション映画『ウィッシュ』は、これまでディズニーが掲げてきた「夢」や「願い」、そして「魔法」というテーマに正攻法で挑んだ意欲作といえるだろう。