ドリップもサイフォンも、これ1台でOK! タイガーの「毎日飲みたくなるコーヒー」舞台裏
ハイブリッド実現のキーパーツはドリッパー
HYBRID BREWのデザインは、従来からあるドリップコーヒーメーカーに類似したなじみ深いもの。なじみの薄いサイフォンではなく、より身近な構造を採用することにした。 浸漬式の抽出に対応するためのキーパーツがドリッパーだ。コーヒー粉を湯に漬けるのにドリッパーを活用している。 通常のドリッパーでは湯をためられないが、HYBRID BREWのドリッパーには底に弁を設定。弁を開けばコーヒーが抽出され、閉じればコーヒー粉を湯に漬けられるようになっている。 弁構造を持つドリッパーは、すでに存在していた。商品開発グループ開発第1チーム 副主事の久木野景介さんは、そのようなドリッパーを参考にしたことを明かす。 自動で抽出するコーヒーメーカーで、弁構造を持つドリッパーの弁をいかにして自動開閉させるか。これがHYBRID BREW開発の大きな焦点になった。 弁の自動開閉は、ドリッパーの裏側下部に設けた可動部を押し込むことで実現した。ドリッパーと本体との接続面に、ピン状のパーツが内蔵されており、これが飛び出してドリッパーの可動部を押し込むことで弁が開く仕組みだ。 「設計担当が工夫してドリッパーの可動部を押し込むパーツを配置してくれたので、本体が大きくなるような大がかりで複雑な機構を採用せずに済みました」 このように振り返る久木野さん。ドリップコーヒーメーカーをベースにしたので、開発はドリッパーの弁を自動的開閉する方法とその機構をいかに本体に組み込むかに集中でき、作業が進んだ。
透過式より雑味が抑えられた味わい
HYBRID BREWは「Rich」「Strong」「Iced」の3つの抽出モードを搭載している。蒸らし工程は全モードで浸漬蒸らしを行い、抽出工程は「Rich」「Iced」では透過と浸漬を交互に繰り返す。「Strong」だけはすべて透過で抽出を行う。 抽出プログラムの構築は手探りで進めた。久木野さんは次のように話す。 「浸漬式と透過式のハイブリッドにすることで、透過式で淹れたコーヒーより雑味を抑えられるイメージを持っていました。とはいえ、そのような味わいを実現するためにどうやってコーヒーメーカーを動かせばいいかについては、抽出プログラムをつくっては実験と検証を重ねて決めていきました」 味づくりの難しさは、抽出プログラムだけでは味が決まらない点にある。弁の大きさ、上から湯を注ぐスピード、ドリッパー内側のリブ(溝)の入れ方など細かいところも考慮しなければならなかった。 コーヒーロースター(焙煎士)のアドバイスを受けながら味づくりは進めたが、最初のころの評価は「いいものはできそうな傾向はあるけど、まだやりきってはいない」。これまで味わったことがないようなものができそうだったが、全体的に味が薄く、浸漬式の特徴を十分に生かせていなかった。 それでも、同社としては透過式と浸漬式のハイブリッドは、方向性として間違っていないことを確認できた点が大きな収穫になった。おいしいコーヒーが抽出できるレベルに達したのは2023年11月ごろで、そこからさらに1年近く「Rich」「Strong」「Iced」のモードごとの味をつくるのに時間がかかった。