【深堀特集】奈良のシカは“神の使い”か“害獣”かー 深刻化する被害に農家悲鳴「せっかく1年かけて育てたのに…」一方、保護施設では相次ぐ衰弱死 “両立”求める現行制度が破綻の危機、求められる打開策は?
1200年以上前の奈良時代から、“神の使い”としての歴史を歩んできた奈良のシカ。室町時代には「神鹿を殺した人は死刑」とされたほどで、いまも国の天然記念物として手厚く保護されています。 相次ぐシカの衰弱死…奈良の文化に異変 保護施設が“破綻”の一方、深刻な農業被害に怒りの声も 一体何が?【かんさい情報ネットten.特集/ゲキ追X】 一方で、深刻な農業被害を引き起こす害獣としての側面もあります。奈良市内の農家は「こちらとしては害獣ですよ。神の使いという昔話を聞かせてもらっても…」と憤ります。
さらに、シカを収容する施設では、勤務する獣医師が「骨が浮き出るほど痩せ、衰弱死するシカが相次いでいる」実態を告発。 奈良のシカは、“神の使い”か“害獣”か―。悩ましい線引きのあり方を「ゲキ追」しました。(取材:尾坂 健太郎、神田 貴央、属 ちひろ)
「殺せないから追いかけるだけ」相次ぐシカの農業被害、3トン以上の収穫断念も…「怒りがこみあげてきて…」
取材班が向かったのは、奈良公園から10キロ以上離れた京都府との県境に位置する、奈良市北東部の柳生地区です。ロケット花火を林に向かって打ち込んでいたのは、シカの被害に悩む農家でした。「シカへの脅しや。殺せないから追いかけるだけ」
この地区では今年、シカによる農業被害が相次ぎました。農家の一人は、シカに倒された柵について、「あれは上から(柵を)飛び越そうと思って、足でひっかけて倒したところですね。簡単に飛び越えたり、足でひっかけて切ってしまったり、難しいですね」と頭を悩ませていました。
次に案内された先にあったのは、葉や茎が食いちぎられるなど、シカに荒らされた大豆の畑です。農家は「一か月前ぐらいから徐々に食べにきて、今こういう状態。せっかく1年かけて育てた作物をやられると怒りがこみあげてきて…。天敵ですね」と話しました。
そこから、奈良公園に3キロほど近づいた地域では、さらに被害が深刻でした。コメ農家の男性は、3トン以上の収穫を断念せざるを得なかったといいます。「(損失は)80万円くらいかな。シカがくるのは昔から多かったですが、いまの増え方は異常」だといいます。
奈良のシカは“神の使い” エリアで線引きされる、「保護」と「殺処分」
奈良時代の768年、神様が白いシカに乗って奈良の地に現れたという伝説から、奈良のシカは神の使いとして大切に保護されてきました。農業被害が深刻でも国の天然記念物に指定されていることから、捕獲して殺処分するハードルは高いのです。
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