【深堀特集】奈良のシカは“神の使い”か“害獣”かー 深刻化する被害に農家悲鳴「せっかく1年かけて育てたのに…」一方、保護施設では相次ぐ衰弱死 “両立”求める現行制度が破綻の危機、求められる打開策は?
この調査結果に対し、行政の方針に従って特別柵を運用していた愛護会側は強く反論しました。 (奈良のシカ愛護会 山崎伸幸事務局長) 「頭数の増加が続く限り、(良い)衛生環境を作り出すことは不可能です。当会が特別柵の中で収容するのであれば、上限は何頭にすればシカにとって快適な環境であるのか科学的知見をご教示いただいて、そういった指針に基づいて当会は運営をしてまいりたいと思います」
シカの飼育は、どれほど大変なのでしょうか。ニホンジカ6頭を飼育する和歌山城公園動物園では、1日あたり1人から2人の飼育員が1頭1頭の特性や体調にあわせた飼育を徹底し、掃除も1日2回行っています。
ここではエサを与える際、3か所に分けて置くことでまんべんなくいきわたるようにしているということです。エサの奪い合いを避け、弱い個体でも十分に栄養を取れるよう配慮しています。また、気性が荒く角の生えたオスのシカに対しては細心の注意が必要だといいます。 (和歌山城公園動物園飼育員 阿波夏凜さん) 「角で喧嘩するなどしてケガをする可能性があるので、事前に隔離するとか過剰に接触しないように配慮しています」
一方、奈良のシカの特別柵で、230頭のシカに対応する愛護会の職員は、わずか6人です。その上、奈良公園の周辺でけがをしたシカの保護や出産への対応、パトロールなど、シカを守る仕事を一手に引き受けています。 予算も限られる中、5000平方メートルほどある特別柵の衛生環境を整え、ケンカやエサの奪い合いなどのトラブルを全て防ぐことは難しいと訴えます。 (奈良の鹿愛護会 山崎伸幸事務局長) 「6人全員が出勤する日はほとんどありませんので、2人か3人で全体を掃除していますし、人的な面では群れを一頭一頭(体調や性格を)見て管理するというのはできない状況です」
保護と農業被害の防止、両立を図ってきた制度が破綻寸前…打開策は?
シカの保護と農業被害の防止、その両立を図ってきた制度が破綻しつつあり、打開策が求められています。シカに発信機を付けるなど、奈良のシカを30年以上研究する北海道大学の立澤史郎特任助教は、保護するシカの対象を現行制度のようにエリアで区切るのではなく、1頭ごとに管理する方法もあると提言します。 (北海道大学 立澤史郎特任助教) 「いまペットだけではなく野生動物にもマイクロチップを入れるという(事例もある)。例えば年をとった個体がどのくらい、今年生まれた子どもがどのくらいいるかどうかなど、しっかり保護のための管理ができると思います」 文化庁は、奈良のシカを天然記念物に指定した際、主な生息地を「(旧)奈良市一円」としていましたが、その具体的な根拠は明らかにされていません。奈良市内の広い範囲にかかる規制は、適切なのでしょうか。
11月25日、年間180頭の殺処分に限定される地域で、1頭のシカが罠に捕らえられていました。すでに殺処分の上限に達しているかどうかで、生きるか死ぬかの運命が決まるこのシカは―“神の使い”か、“害獣”か。 (「かんさい情報ネットten.」2023年12月5日放送)
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