伝統的な生酛造りが新時代の日本酒を切り開く 神奈川・海老名『泉橋酒造』
伝統的な生酛造りが新時代の日本酒を切り開く 神奈川・海老名『泉橋酒造』
しっかりした味わい。原点回帰。そんな言葉で表現される「生酛(きもと)」。昨今の吟醸香ブームの流れで、酵母由来の香りを楽しむ日本酒が人気だが、とりわけ次世代の造り手たちは生酛に注目し、研究している。
神奈川・海老名『泉橋酒造』
橋場友一 1857年創業の「泉橋酒造」六代目。慶應義塾大学卒業後、証券会社に3年間勤めたのち、1995年に泉橋酒造入社。「酒造りは米作りから」をモットーに栽培醸造技術の向上に励む。
新しき伝統の酒造り「生酛」の可能性
神奈川県海老名市の『泉橋酒造』は、2004年に始めた山廃造りをきっかけに、生酛造りに目覚めた酒蔵のひとつだ。六代目の蔵元杜氏、橋場友一氏は言う。 「無農薬の田んぼの米で山廃造りの酒を造ったら、その旨さに愕然。無農薬で米を作る大変さが腑に落ちました。5年後の2009年に始めた生酛造りは、山廃より繊細な味わいなのに、米由来の旨味成分をたくさんのせることができたんです」。 乳酸によって雑菌を抑えながら、アルコールを生み出す酵母を増殖させる「酒母(酛)」。その乳酸を作る乳酸菌を自然の中から取り入れた製法が、生酛造りだ。400年前以上前の江戸時代に考案された、いまの日本 酒の原点とも言える製法で、仕込み(酛立て)に2日、酵母育成期間に30日を要する。手間と難易度から、現在の主流は乳酸を添加する「速譲造り」の酒が大半を占めているのが実状だ。 「当たり前ですが、江戸時代には電気もガスも温度計もない。菌という概念すらなかったのに、蔵人の勘と経験だけで生酛造りが完璧にできていた。そして、その造り方が今でも脈々と受け継がれて機能している。ロマンを感じますね」。 泉橋酒造は、原料米の栽培から精米・醸造までを一貫して行う、全国でも珍しい「栽培醸造蔵」。現在、使用する酒米の95パーセントは地元神奈川県産で、自社の田んぼでとれる酒米も総量の15パーセントに及ぶ。 「生酛や山廃は、基本的に米由来の乳酸菌から殺菌してできる。なので、弊社のように土壌にこだわって米作りからやっていると、その土地の味わいを表現することができるんです」。 2016年から、すべての山廃を生酛に移行し、総量の半分を生酛にした泉橋酒造。造り手の個性が表現された生酛造りの酒は、大きな可能性を秘めている。