「御社と貴社」「当社と弊社」の違いって?会社を指す敬語の使い分け方
相手の会社を指す「御社」「貴社」や、自分の会社を指す「当社」「弊社」という言葉。ビジネスシーンでよく登場しますが、「今はどっちを使えば?」と混乱してしまうこともあるかもしれません。それぞれの言葉の意味合いと基本的な考え方、使い方について、『がんばらない敬語』の著者で、書き言葉と話し言葉のプロとして活躍するフリーアナウンサーの宮本ゆみ子さんに伺いました。
「御社=話し言葉」「貴社=書き言葉」は絶対ルール?
「御社」と「貴社」とはどちらも相手の会社を指す言葉で、相手の会社を高めることで敬意を表す「尊敬語」です。そして、これらは一般的に次のように使い分けると言われています。 御社(おんしゃ)……話し言葉で相手の会社を指すときに使う 貴社(きしゃ) ……書き言葉で相手の会社を指すときに使う しかし、「言葉は時代とともに変化する生き物である」という前提で、これらが使われるようになった経緯を振り返ると、実はいつどちらを使っても日本語として間違いではないのです。 ◇書き言葉で「御社」を使っても間違いではない じつは「御社」「貴社」という敬称は大正時代ごろから存在していたと言われ、もともと口語・文語という区別はありませんでした。1970年代ごろまでは、相手の会社を指す言葉として「貴社」が使われることが多かったのですが、80年代後半ごろから「御社」が社会人や就活生の間で使われるようになり、流行語のように広まって、今はすっかり定着したという経緯があります。 流行が定着した背景には、「貴社」に「記者」「汽車」「帰社」などの同音異義語があることが挙げられます。文字として目に映る際には問題ありませんが、会話の中ではほかの「キシャ」と紛らわしいと感じる人も多かったようです。「御社」にも同音異義語はありますが、「キシャ」ほど多くはありません。そのため、耳で聞いた場合には「御社」のほうがわかりやすく、誤解がなく伝わったからと推測されます。 「御社」という言葉が、「耳で聞いたときに誤解のないようわかりやすく」という思いやりから定着したことを考えると、会話では「貴社」よりも「御社」を使う方がより丁寧かもしれません。しかし同時に、書き言葉に「御社」を使ったとしても、それは日本語として間違ってはいません。 実際に、ビジネス文書やメールで相手の会社のことを「御社」と書く方も珍しくはありませんし、私自身、そうしたメールを受け取っても特に気にはしません。 ◇「御社」と「貴社」を使い分けた方が良いケース ただし、転職活動や就職活動においては、よく言われる通り、話し言葉は「御社」、書き言葉は「貴社」を使うと認識しておいた方がいいと思います。 なぜなら、企業の採用担当者の中には、これらの言葉の区分をビジネスマナーとして厳密に捉える方も多いからです。「シューカツ用語」のひとつと考えてもいいかもしれません。この場合は日本語的に正しいかどうかよりも、場の目的や相手の考え方に配慮することが大切です。したがって応募企業に電話をしたり、面接で受け答えをしたりするときは「御社」を、メールや履歴書、職務経歴書などで相手の企業を指すときは「貴社」を使うことをおすすめします。 ◇相手が会社ではない場合の敬語表現について ビジネスや転職活動の相手が一般的な会社である場合の敬称は「御社」や「貴社」となりますが、それ以外の場合は次のような言葉に変化しますので、覚えておくといいでしょう。 銀行 ……「御行」「貴行」 信用金庫……「御庫」「貴庫」 協会 ……「御協会」「貴協会」 ○○法人……「御法人」「貴法人」 学校 ……「御校」「貴校」 病院 ……「御院」「貴院」