需要高まる訪問看護 一部で質低いケア“医療費の搾取”も 「チェック機能」求める声【衆院選】
超高齢社会、医療技術の進歩などを背景に、小児から高齢者まで幅広い世代で在宅療養を希望する人が増え、国も推奨する中で今後ますます需要が高まることが予想される。在宅療養を支える訪問看護の事業所数は増加の一途をたどる一方で、県内でも一部事業所の不適切なケアや“医療費の搾取”とも取れる実態が出ていて、誰もが質の高いケアを受けられる体制の整備が求められている。 「あの経験は今もトラウマ(心的外傷)として残っている」。精神疾患がある浜松市の女性(43)は、以前に利用していた訪問看護のつらい体験を振り返る。訪問回数は相談なく一方的に変更され、事業所の都合で利用の一時中止を提示されたことも度々あった。不安から薬を1錠多く服用した際は理由も聞かれずに「甘えや依存」などの言葉で叱責(しっせき)された。女性の夫(44)は「不適切な関わりは利用者の害となる危険性がある」と怒りをあらわにする。「専門性を備えることはもちろんのこと、適切な関わりが行われているかをチェックするシステムが必要では」と訴える。 看護ケアと生活支援を行う訪問看護は、利用者と家族がどのような治療や看護を受けながら過ごしたいかを傾聴し、利用者らの意思・意向を踏まえた支援が求められる。訪問回数は規定の範囲のなかで、主治医の指示や利用者の症状・意向と照らして調整する。 医療保険と介護保険の両制度で提供され、医療保険での訪問は原則週3日の利用が限度だが、末期がんや難病、精神疾患などの疾病、主治医が認めた場合は週4日以上が可能となる。基本料金のほか、さまざまな診療報酬上の加算が設けられているが、不必要な算定を重ねる事業所が現れているという。 国は2024年度の診療報酬改定で、一定回数以上の緊急訪問や重症の精神疾患に対応していない事業所の診療報酬を下げるなど、持続可能で質の高い訪問看護を確保する方針を示した。だが、全国訪問看護事業協会理事を務める浜松市の訪問看護ステーション細江の尾田優美子所長は「悪用する事業所にとっては焼け石に水」と指摘し、「大切な保険料でまかなわれているサービス。医療保険に監査体制がない点も問題」と強調する。 「一部の事業所によって訪問看護全体の評判が下がるのが切ない」。訪問看護に携わる人々からは切実な声が上がっている。 <メモ>訪問看護制度は1992年に創設された。訪問看護ステーションや病院・診療所が提供し、医療保険(診療報酬)と介護保険(介護報酬)で運営している。介護保険の対象は要介護・要支援認定を受けた人。医療保険の対象は原則、要介護・要支援でない人だが、末期がんや難病、精神疾患などの場合は介護保険利用者でも医療保険の対象となる。 訪問看護の利用者は全国で約122万人、訪問看護ステーションの数は1万5000カ所を超える。訪問看護にかかる医療費と介護給付費はいずれも年々増加し、2020年は医療費が3200億円、介護給付費が3700億円だった。
静岡新聞社