過去最悪の下落幅を更新…ジム・ロジャーズが危惧したとおりになった日本の株式市場
実はそれほどうまみがないことに気づいた投資家たち
というのも、今回の株価上昇は短期的な成果に過ぎない、と考えているからだ。言い方を変えると、短期間でこれだけ株価が上昇する、急激な成長というのは、これまでの歴史を振り返ると根本的な問題を隠していたり、長期的には深刻な問題が待ち受けていたりすることが大半だからである。 このような考えをもつのは私だけでなく、市場に携わる人たちや経済の専門家たちも同様であることも付け加えたい。 もちろん、植田総裁が進めている金融政策の正常化プロセスについては、日本経済の復興に向けて正しい方向に導く一歩だとは思う。 利上げは必要な措置であり、正常な金利水準は、長期的な経済の安定にとって重要な要素だからだ。このことも、歴史が物語っていることでもある。ただし重要なのは、この道筋を維持できるかどうか、継続していくことができるかどうかだ。 繰り返しになるが、儲かるマーケットがあると知れば、投資家は飛びつく。その結果、市場は割高となる。関係者は株価が上がったと喜ぶだろうが、上がり過ぎた株価はいずれ暴落する可能性を秘めている。このことも、歴史が物語っている。 投資家が冷静になり、長期的な視点でマーケットを見た場合、実はそれほどうまみがなかったことが分かってくるからだ。そしてまさに今、日本のマーケットはそのような局面を迎えている。 最高値を記録していた当時の盛り上がりとは一転、株価は一気に下落、逆に過去最悪の下落幅を更新する事態にまでなり、証券会社などの金融機関が投資家に説明を行ったり、岸田文雄首相(当時)が落ち着いて対処するよう国民にメッセージを伝えたりするまでの事態になっている。
急激な成長のウラに潜む「長期的な課題」
まさに私が予想したとおり、危惧したとおりの事態になってしまっていると言えるだろう。これは、2024年7月中旬に、円相場が4円以上、円高方向へ動いたこと、それに続く株価の乱高下についても言えることだ。急速な円高方向への動きについて、政府による市場介入が行われた可能性があると推測されている。私はこうした介入が一時的な効果しか持たないことを強調したい。 必要なのは、長期的な視点で日本経済の根本的な問題に取り組むことだ。市場への介入は問題を悪化させる傾向が強いため、より賢明な判断を下す市場に任せるべきだ。これは、歴史が物語っていることでもある。 その後、8月5日に東京株式市場で、大暴落が起こった。この暴落を引き起こしたのが、日銀の金融政策によるものかは、私には分からない。ここからさらに暴落する可能性についても、否定できない。 翌6日には、史上最大の上げ幅を記録するなど、歴史的乱高下が続いている。ただ、これは基本的な市場の動きだ。大きな暴落があれば、しばしば反発がある。この現象は、デッド・キャット・バウンスと言われている。ウォール街の格言の一つで、急激な価格下落の後に、一時的に株価が反発することをいう。これは、市場で頻繁に起こることだ。とはいえ、バブルはまだ続くと考えている。 株価の急上昇は、根本的な問題を覆い隠していることが多く、急激な成長の裏には長期的な課題が潜んでいる。特に日本の経済は少子高齢化や構造改革の遅れといった根本的な問題を残しており、これらが解決されない限り、持続的な成長は難しい。 今後の日経平均株価について尋ねられることがあるが、その予測は非常に慎重にならざるを得ない。市場の短期的な動きは予測が難しく、特に現在のような乱高下が続く状況ではさらに不確実性が高まるからだ。繰り返しになるが、重要なのは、投資家が冷静になり、長期的な視点でマーケットを見た場合、実はそれほどうまみがなかったことを理解することである。
※本記事は『「日銀」が日本を滅ぼす 世界3大投資家が警告する日本の未来』を再構成したものです。
執筆:ジム・ロジャーズ